1.ある、村の片隅で

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1.ある、村の片隅で

「おばあちゃん! 早く早くー!」 「ちょっと待って陽菜ちゃん。おばあちゃんそんなに走れないよ」  二〇二三年、夏。とある田舎町の農道で、常世田陽菜(とこよだひな)とその祖母高瀬松代(たかせまつよ)は戯れていた。松代の長女の娘である陽菜は小学校四年生の十歳。夏休みを利用して祖母が暮らす村に一人で遊びに来ていた。 「陽菜ちゃーん。待ってー」  活発な陽菜に手こずる松代だったが、それでも孫の健やかな成長は嬉しいもの。汗を搔きながら陽菜を追いかけて、家の付近を散策している所だった。 「おばあちゃん、神様の(ほこら)があるよー」  陽菜は、農道の脇にある小さな祠に目を留めた。今までは気付かなかった祠だが、年季の入っていそうな祠には、花や酒などの供え物もきちんとしてあった。 「ああ、それはおシヅ様の祠だよ。陽菜ちゃんにはまだおシヅ様の話はしていなかったっけ?」 「うん。陽菜聞いた事がないよ。おシヅ様って誰?」 「陽菜ちゃんももう十歳になったし、そろそろおシヅ様の話をしてあげようか。おシヅ様の悲しい恋と、そしてこの村の(ごう)の話を……」
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