2.人柱になる娘

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2.人柱になる娘

 江戸時代中期、同村にて。  梅雨から始まった雨は留まる事を知らず、水害に苦しんでいた村の民たちは、神の怒りを鎮めるために人柱を捧げようと話し合った。人柱の巫女に選ばれたのは、当時十六歳だったおシヅという少女だった。 「おシヅが、人柱にされる……」  おシヅと幼馴染の田吾作は、おシヅが人柱になるという話を聞いて、居ても立っても居られなくなった。赤子の頃から共に成長してきたおシヅ。いつの頃からも分からない時から、田吾作はおシヅと夫婦(めおと)になろうと決めていた。家業の農家を継ぐ予定の田吾作は、時が来たらおシヅと夫婦になるための準備もしていた。そして、そろそろ夫婦の誓いをする算段をしようかという矢先、水害の鎮圧のためにおシヅが人柱になるという話を聞いた。  三日後には、おシヅが人柱になる。おシヅは今、清めのために村の神社に隠されているとの事だった。夜が更けた頃、田吾作は、一心不乱に神社に走った。  神社の周りには村人の見張りもいたが、ここは勝手知ったる村の神社の境内だ。雨の音も田吾作がそっと神社に近づくために好都合だった。田吾作は、裏の抜け道から神社へと抜け、見張りの目をかいくぐっておシヅの元へと来た。  おシヅは、清めのための白装束を着て、ひとり座っていた。 「おシヅ! おシヅ!!」 「……っ!!?? 田吾作!?」 「しっ! 大きな声を出しちゃいけない! いいか、おシヅ、ここから俺と逃げるんだ!」 「に、逃げるって、どうやって? 田吾作、村の人に見付かったら殺されるよ!」 「大丈夫だ。俺はこの村の抜け道という抜け道を知っている。だから安心して付いてこい、おシヅ!」 「でも、私が人柱にならなきゃ、村の水害が……」 「俺は村よりおシヅ、お前が大切だ。遠くへ逃げて、夫婦になろう」 「田吾作……」  田吾作は、おシヅの手を取り、抜け道を通って神社を出た。そして走った。山の中を走った。暗闇の上、雨が降りしきる中の山道は、ぬかるみにはまって何度も転びそうになった。だが、田吾作もおシヅも必死に走った。
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