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そして現在へと
「という、昔話でね、この村の人はおシヅ様と田吾作の祠を大切にしているんだよ」
陽菜は、驚いた様子で松代の話を聞いていた。
「おシヅ様と田吾作さんは、好き同志だったのに一緒になれなくて口惜しかったのかな」
「そうだねぇ、愛する人を目の前で奪われる悲しみは、何よりも勝るよね。ああ……今日もこの村の緑は綺麗だねぇ……」
松代は、村の山々と田んぼを見通した。今は陽菜という孫娘も出来て、幸せの絶頂だと言えるだろう。しかし、この村の繁栄には、おシヅと田吾作という二人の若者の犠牲があったからこそだという事を、忘れてはいけない。
「お家に帰って、スイカを食べようか、陽菜ちゃん」
「うん! おばあちゃん!」
そうして、今日も村の片隅の祠には、供え物がされ、人々が祈りを捧げるのだ。どうか、二度と村が悲しい目に遭わないようにと、そして、自分たちの業を許してください、と。
────了
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