5.はじめてのデート

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 プラネタリウムの上映が終わると、館内を見学していたら昼近くになった。  昼食の時間になったので、オレたちは市民公園の広場に向かう。 「どうだった? 退屈じゃなかったかな?」  歩きながら、水瀬が少しだけ不安そうな顔で、オレのことを見てきた。  オレは笑いながら首をふった。 「宇宙って、でっかいな」 「うん」 「それに、きれいだな」 「うん」  宇宙の壮大なスケールと幻想的な美しさ。  水瀬と同じ理由かはわからなかったが、オレはオレで、プラネタリウムを存分に楽しんだ。  その気持ちを素直に伝えたら、水瀬ははじけるような笑顔を浮かべた。 「朝丘くんも楽しんでくれて、よかったぁ」  このときにはもう、オレは水瀬と自然に話すことができ、緊張することはなかった。水瀬は住む世界がちがう『お嬢さま』ではなく、フツーの友だちだ。  オレたちが楽しく話しながら広場への道を歩いていると、小さな子どもたちが、背の高い木のまわりに集まっていた。  小学校の低学年くらいだろうか。  木の上を見ながら、指をさしていた。  坊主頭の男の子が、クツを脱いでいる。  オレはその姿を見て、非常にイヤな予感がした。 (ビーーー、ビーーー、ビーーー)  頭の中で、大音量の警報が鳴りひびく。 (……やっぱり)  イヤな予感が的中し、『アラーム』が発動してしまった。  オレは目を閉じ、深く息を吸い込む。  そして覚悟を決めると、目を開けた。  まず目に入ったのは、坊主頭の男の子が、スルスルと木に登っている姿だ。  どうやら、枝に引っかかったサッカーボールを、取ろうとしているようである。  次から次へと枝を足場にしていき、ボールへと近づいていく。  だが、ボールにあとちょっとのところで、足をかけていた枝が、ポッキリと折れてしまった。  男の子はそのまま足を踏み外し、木から落ちてしまう。  地面に落下した男の子は、足をおさえながら、大泣きしていた。  テレビのチャンネルを切り替えたように、オレの見えている光景が変わった。  坊主頭の男の子が、木に足をかけようとしている。  このままだと、男の子は木から落ちて、足を骨折してしまうだろう。  しばらくは足にギプスをつけて、松葉杖をつく生活をしないといけなくなる。  だけど、命の危険はない。  治るまで、走り回れなくなるだけだ。  超能力がバレてしまう危険をおかす必要はない。  知らない子が、ケガをするだけ……。 「ええい、チクショー!」  首をふって、一瞬、頭に浮かんだ考えを吹きとばすと、オレは走り出していた。  すぐに、問題の木に近よる。  木を登りはじめた男の子は、まだ、オレの頭の高さまでしか登っていない。  オレは両手をのばして、男の子をヒョイッと持ち上げた。 「おい、なにすんだよ! はなせ!」  坊主頭の男の子が、怒る。 「なんだよこいつ、ジャマすんなよ!」 「どっかいけ!」  集まっている子どもたちから、猛抗議を食らう。 (この、クソガキ!)  せっかく助けてやろうとしてるのに、とむかついたが、事情を説明するわけにはいかない。  オレが困っていると、 「ねえ、キミたち。『わんぱく広場』の場所って、わかるかな?」  オレを追ってきた水瀬が、子どもたちに向かって、笑顔でたずねた。 「すぐ近くにあるじゃん。そんなのも知らねえのかよ」 「そうなんだ! みんな、物知りですごいね! お姉さんに、くわしく教えてくれないかな?」 「ちっ、しょ……しょうがねーな」  水瀬が子どもたちの視線を集める。  オレを見ている子は、いなくなった。  みんな、突然現れたきれいなお姉さんに、気が向いているようである。 【……さ、今なら、だれも見てないからチャンスだよ】  オレの頭の中に、水瀬の声が、かすかに聞こえたような気がした。  驚いて水瀬の方を向くと、目が合う。  水瀬は木に引っかかっているボールにチラッと視線を向けると、オレに向かってうなずいてみせた。    たしかにチャンスである。  オレは、サッカーボールに向かって右手をのばし、サイコキネシスを使った。 (動け! 動きやがれ!)  サッカーボールはサイコロや五百円玉よりもはるかに重いので、全力でサイコキネシスを使う。  しかし、ボールはなかなか動かず、額には汗がにじんでくるのを感じた。 (頼むから、動けよ! さっさと、動いて落ちやがれぇえええっ!)  オレの願いが通じたのか、しばらくすると……、  ガサガサガサッ…………ドテッ、コロコロコロ。  ボールが木から落ちてきて、地面を転がった。 「あ、落ちてきた!」 「ラッキー!」 「やったー!」  子どもたちはボールに気づくと、拾いにきた。  そしてすぐに、ボールを持って駆けていく。 「お姉ちゃん、バイバイ!」と手をふっていく子もいた。  あたりまえだが、オレのことなんて完全にムシである。  お礼を言う子なんていない。 (……ま、しょうがねえか)
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