5人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
子どもたちが去っていくと、水瀬が「おつかれさま」と言いながら、ハンカチを取り出して、オレの額の汗をぬぐった。
「……あ、ありがとう」
タマキがタオルを放り投げてきたことはあったが、女子にこんなことをされるのははじめてだ。
うすいピンク色のハンカチから、フワッといい匂いがただよってくる。
だまっているのが、気恥ずかしい
水瀬から顔をそらして、話しかけた。
「小さい子の相手、慣れてるのか?」
「うん、弟がいるからね」
水瀬がうなずく。
「それにしても、よく『アラーム』だって、わかったな」
「朝丘くんが、すっごくあわてていたからね。わたしのときと同じだなって」
「そっか、助かったよ。おかげで、だれもケガしなかった」
水瀬が子どもの気をそらし、オレが超能力でボールを落とす。
なかなか見事なコンビネーションであった。
(そういや、あのとき水瀬の声が聞こえた気がしたんだよな……)
気のせいかもしれないが、水瀬に聞いてみようとしたら、
ぐぎゅるうううう~~~~。
オレのお腹が、ハデな音を立てた。
「ふふっ。すぐにお昼にしようね。甘いものも用意してあるよ」
「……頼む」
オレはいたたまれない気分でうなずいた。
(この欠点……マジでイヤだ!)
全力で超能力を使ったので、体はクタクタだし、お腹はペコペコである。
広場につくと、芝生にシートをしいて、水瀬が弁当を広げる。
この弁当は、わざわざ水瀬が作ってきてくれたのだ。
ナプキンに包まれた水色の弁当箱を開けると、おにぎり、たまご焼き、とりのからあげ、ソーセージなどが、きれいにつめられている。
オレが好きだと教えたおかずが、いっぱいにつめこまれた、夢のような弁当だ。
「おお、すげー! うまそう!」
「いっぱい作ってきたから、遠慮なく食べてね」
「サンキュー、いっただきます!」
言われなくても、オレに遠慮するよゆうなんてない。
まずは、からあげをひとつ、パクリと口に入れる。
「………………!」
そこからは、とまらなくなった。
次々と、ハシをのばす。
口いっぱいに、ほおばる。
からあげはサクサク。
ソーセージはジューシー。
たまご焼きは、甘めの味つけ。
おにぎりの具は、甘じょっぱい焼きたらこ。
好きなおかずが、おいしく調理されている。
オレはグルメなわけじゃないが、水瀬がとんでもなく料理がうまいのはわかった。
気づいたら、料理がなくなっている。
夢中になって食べていたので、あっという間に、食べ終わってしまった。
超能力を使ってお腹が空いていたせいもあるが、ホントにおいしかったのだ。
「これ、デザートのマドレーヌを焼いてきたんだ」
「おおっ、サンキュー!!」
甘いものまでカンペキである。
超能力で消耗したエネルギーをおいしく補給できたので、オレは元気になってきた。
「どうだったかな?」
水瀬が上目づかいで聞いてくる。
「いや、もう、サイコーだった! こんなうまい弁当は、生まれてはじめて食べたぞ!」
「それは、オーバーだよ。でもよかった」
オレの言葉に、水瀬はうれしそうに笑った。
午後は、広場の近くにあった大きな池で、オレたちは貸しボートにのった。
最初は、二人でオールを一本ずつ持ちながらこいでみたけど、オールの操作がむずかしくて、なかなかまっすぐに進まない。
だけど、それがとてもおかしくて、二人でゲラゲラ笑っていた。
けれど、しばらくして操作に慣れてくると、ボートは思うように動けるようになる。
ゆったりと池の上をただよいながら、二人でのんびりとした時間をすごした。
他にも、小動物にさわることができるコーナーなどで遊んでいるうちに、気づいたら夕方近くになった。
「そろそろ帰るか?」
「そうだね」
二人で並んで歩き、今日あった楽しかったことなどを話す。
話すことはいくらでもあって、会話がとぎれることはなかった。
最初のコメントを投稿しよう!