1.タクヤのヒミツ

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 ……もう気づいてる人もいるかもしれないが、さっき五百円玉を側溝から拾うのには『サイコキネシス』を使ったんだ。  もちろん、オレが超能力を使えることは、ヒミツにしている。  だれかに見られたら大騒ぎになって、すぐに週刊誌やワイドショーの記者に追いかけられてしまう。  今後は、フツーの生活ができなくなるだろう。  ひょっとしたら、どこかの研究機関に捕まって解剖されちまうかもしれん。  だから、さっきだって通行人がいないのは確認したし、男の子の気をそらした。  だれにも見られないようにしてから、超能力を使ったのである。  オレのヒミツを知っているのは、タマキだけ。  小さな頃からの、二人だけのヒミツ…………のはずだった。 「待ちたまえ!」  男の人の声で呼びとめられる。なんだか聞いたことがあるような声だ。  オレはすげーイヤな予感をしながら、ゆっくりと振り返ると、背の高い男の人がいた。  その顔には、もちろん見覚えがある。  いつも白衣を着ている変わり者。  若宮小の理科と生活科の専任教師である長谷川先生だ。 「キミ、なにをしたんだね? お金が浮いていたみたいだが……」 (やっべえええ、見られてた! 絶対にごまかさないと!)  オレは背中に冷たい汗が流れるのを感じながら、必死にごまかすことにした。 「え、まさか! お金が浮くわけないじゃないですか。見まちがいですよ。やだなぁ先生、あははははは」 「いや、ボクはキミのうしろから、はっきり見ていたんだ! まちがいないよ!」 「お願いします! このことは、だれにも話さないでください!」  見られていたならどうしようもない。降参だ。  オレは自分がエスパーであることを説明して、ヒミツにしてくれるよう、長谷川先生にお願いした。  そしたら長谷川先生が、オレの両肩をつかんで、目をキラキラとかがやかせながら言ってきたんだ。 「す、すばらしい! ぜひ、ボクの実験に協力してほしい!」  なんと、長谷川先生は超能力マニアだったらしい。  たまにでいいから、超能力を使った実験につきあってほしいと頼まれてしまった。  ヒミツを見られてしまったので、オレに断ることはできない。  でも、長谷川先生は悪い人ではなかった。  ホントに超能力を使って、ちょっとした実験をするだけ。  毎回、おやつを用意してくれるし、実験の合間には、科学の話をいろいろとしてくれて、これがすごく面白い。  オレはいつのまにか、長谷川先生と実験する日が、楽しみになっていった。 「超能力を解明し、科学の力で再現できれば、人類のエネルギー問題は解決し、むずかしい病気の人も治せるようになる。だからボクは、この研究に人生をかけているんだ!」  長谷川先生は、オレに向かってしょっちゅう、超能力を研究する理由を熱く語っていた。  ボサボサの髪。  よれよれの白衣。  だしなく伸びたヒゲ。  はっきり言って、長谷川先生の見た目はダサい。女の人にモテそうにない。  でも、キラキラしたひとみで超能力について語る先生は、ちょっとだけカッコよく見えるんだ。    こうして、オレの超能力については、オレとタマキと長谷川先生の三人のヒミツとなったんだ。
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