5人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
2.ヒミツの実験
長谷川先生に超能力のヒミツがバレて、二ヶ月ほど経過した。
「それじゃ、いくか」
「うん」
授業が終わって放課後になると、オレとタマキは、理科準備室に向かった。
ここで、オレとタマキの関係を説明しておこう。
オレたちは親同士が仲がよく、家が近所なので、小さな頃から毎日のようにいっしょに遊んでいた幼なじみだ。
今でも、いっしょに登下校をしている。
小学生のときはクラスがバラバラのことが多かったが、中学になって、久々に同じクラスになったのだ。
タマキに言わせると、「腐れ縁」というやつらしい。
そこらの男子よりも話しやすい、兄妹みたいな関係である。
よし、説明終わり。
「こんにちは」「こんにちは~」
「やあ、よくきてくれたね」
理科準備室に到着すると、長谷川先生が歓迎してくれる。
そして、オレたちが部屋に入ると、入り口のカギをすぐに閉めた。
この部屋には、オレとタマキと長谷川先生の三人しかいない。
つまり、オレのヒミツを知っている人間だけだ。
これからするのはヒミツの実験なので、だれも部屋の中に入ってこられないようにしたのである。
長谷川先生は、いつもこの理科準備室で仕事をしていた。
授業のない時間は常にいるし、休日であっても、この部屋であやしげな実験をしているらしい。
生徒たちには、「この部屋に住んでいるのでは?」とまで言われることもあった。
「先生って、意外と部屋の中をきれいにしてるよね。マンガの中の科学者って、本と書類に埋もれながら実験してるイメージなのに」
タマキが室内をぐるっと見わたして、そんな感想をのべた。
理科準備室の中は、教師用の机と薬品棚、冷蔵庫、実験器具などが置いてあるので、物が非常に多い。
しかし、机の上も棚の中もきちんと整理してあるので、部屋の中は広く感じられた。
「はははっ、効率よく作業するためには、部屋の中をきちんと整理した方がいいんだよ。どこになにがあるのか、一目でわかるようにしとかないとね……それと、汚なくしてると教頭が怖いんだ」
きっと、教頭先生が怖いってのが理由なんだろうなと思ったが、オレはツッコまないでおくことにした。
教頭先生は超がつくほどマジメで怖い先生だ。
廊下で走って怒られている生徒をよく見かける。
オレも正直ちょっと怖い。
「なるほどー。教頭先生が怖いからだったんだね。先生なのに、教頭先生が怖いんだ」
「……あ、いや、あははははっ」
せっかくオレがスルーしたのに、タマキがツッコんでしまう。
まったく、空気の読めない奴である。
先生は困ったように頭をかいていた。
「それで、今日はどんな実験をするんですか?」
オレが助け船を出してあげることにする。
これぞ、気づかいのできる男って奴だ。
「うん、まずは二人とも、そこのイスに座って」
オレたちはすすめられるままに、長谷川先生の机のそばにあるイスに座った。
机の上には、一辺が十センチほどの立方体のガラス容器が置いてある。この容器の中には、小さなサイコロが三つ入っていた。
「今日は、この容器に入っているサイコロを動かしてもらえるかな?」
「はい、わかりました」
似たような実験はなんどもやったので、なにをすればいいのかはすぐに理解する。
長谷川先生との実験は、サイコキネシスを使うものばかりだ。サイコキネシスがどんな力であるのかを、科学的に解明したいらしい。
オレはガラス容器に入っているサイコロに、サイコキネシスを使った。
(動け……動け)
オレが念じると、手をふれていないのに、サイコロがピクピクッとふるえながら、動き出す。
「おおっ!」
長谷川先生は転がるサイコロを見て、うわずった声を出した。
サイコキネシスはなんども見ているのに、長谷川先生は毎回、興奮して顔を真っ赤にする。
ちょっといい気分だ。
(よし、今日は調子がいいから、サービスしよう)
オレはサイコキネシスを慎重に操り、サイコロを転がしていく。
やがて、三つのサイコロは、すべて一の目を上にしてとまった。
「よっしゃ、うまくいった! こんなもので、どうですか?」
オレは得意気に言った。
サイコロを持ち上げるのではなく、転がして思い通りの目を出すのは、ビミョーな力加減をしなくてはいけないので、テクニックが必要なのである。
「いいね。すばらしい!」
長谷川先生がほめてくれたので、がんばったかいがあったようだ。
「手品みたいだよね。ま、こんなの、なんの役にも立たないけど。フツーに、手を使って転がした方が早いし」
「うるせーよ!」
タマキの余計な一言に、少しだけむかつく。
こんな能力なんて、大して役に立たないってのは、オレが一番わかっていた。
「いやいや佐倉さん。朝丘くんの能力は、まだ解明されていない、未知なるすばらしい力なのだよ。この力が解明されるとき、人類のエネルギー問題を解決する第一歩に――」
「あーはいはい。わかりました、わかりましたって!」
長谷川先生の長い解説がはじまりそうだったので、タマキがあわててさえぎった。
とめないと、日が暮れるまでしゃべり続けてしまう先生なのである。
「……先生、タクヤが調子にのらないよう、あんまり、おだてないでよ。タクヤったら、すぐに外で使っちゃうんだから」
「大丈夫だって。オレはもう、外では絶対に使わねーから」
「まえもそういってたのに、長谷川先生に見られたんじゃない!」
「う……それは……」
こないだのことで、オレの信用はゼロである。
約束を破ってしまったので、しょうがないのだが……。
「まあまあ、佐倉さん。朝丘くんも、今後は気をつけるだろう。それよりも、冷蔵庫には、いつものおやつが入っているよ。佐倉さんの分もあるから、遠慮なく食べて」
「やった! 先生、ありがとー!」
おやつという言葉を聞いたとたん、タマキのお説教が一瞬で終わる。
(……やっぱ食い意地が張ってるよな)
タマキは甘い物が大好きなのである。
ま、オレもおやつがすぐに必要だけど……。
「……オレの分も持ってきてくれ」
オレはぐったりと机に頭をのせながら、タマキに頼む。
今のオレには、立ち上がって歩いていく元気がない。
「はいはい、りょーかい」
タマキは苦笑すると、部屋のすみにある大きな冷蔵庫のところへいった。
薬品やサンプルなどを保管するための冷蔵庫なのだが、長谷川先生はいつもここに、おやつを入れておくのである。
タマキは冷蔵庫から目当てのものを取りだしてくると、オレのまえに置く。
駅前にあるドーナツ店の、カラフルな箱だ。
「はい、持ってきたよ」
「おう、サンキュー」
オレは「よいしょっ!」と顔を上げて箱を開けると、中にはチョコレートや粉砂糖のトッピングでいろどられたドーナツが、三つ入っていた。
「どれがいいんだ?」
「あたし、このチョコがかかってるのがほしい。いいかな?」
「オッケー、じゃあそれを持ってっていいよ。残りはオレのな」
「うん。ありがと」
タマキとドーナツの交渉を終える。
もっとも、オレに好き嫌いはほとんどないので、どれでもいい。
だからいつも、タマキに好きなのを選ばせていた。
最初のコメントを投稿しよう!