3.ピンチのときはアラーム

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3.ピンチのときはアラーム

 目ざましの音でオレが目をさますと、足もとが重い。  フトンの上には『コマ』がのっていたようだ。  コマというのは、我が家の飼い猫の名前である。  白、黒、茶色の毛並みが特徴的な三毛猫だ。  元は捨て猫だった。  昔、タマキと遊んでいたときに見つけて、うちで飼うことになった。  拾ったときは手にのるくらいの子猫であったが、いまでは立派な大人の猫になっている。  着替えてキッチンのドアを開けると、母さんが食器を洗っていた。 「おはよ」 「おはよう。今朝はタマちゃんが、新鮮なアジを持ってきてくれたわよ」 「そっか、今日から来るって言ってたな……ファーア」  欠伸まじりにテーブルに目をやると、たしかにタマキが座っていた。  魚の身をほぐして、フーフーと冷ましながら、コマにあげているようだ。 「もう、タマちゃんを見習って、もっとシャキッとしなさいよ」 「ハイハイ」  母さんの言葉を、適当に聞き流す。 『タマちゃん』というのは、もちろん、タマキのことである。  オレの両親とタマキの両親は幼なじみで、昔から仲がいい。  タマキのことは、生まれたときから知っているのだ。 「吾郎(ごろう)おじさん、いつまで忙しいの?」 「一ヶ月くらいみたいね。しばらく朝食はタマちゃんといっしょだから、仲よくね」 「うん、わかった」   タマキの父親である吾朗おじさんは、漁師である。  忙しい時期は、両親で明け方に家を出てしまうのだ。  だから、母さんが提案した。 「タマちゃん一人じゃかわいそうだし、朝食はうちに食べにいらっしゃいな」  その結果、両親がいないときだけ、タマキは朝食を食べに来るようになった。  そのかわりなのか、ちょくちょく、新鮮な魚を持ってきてくれるのだ。 「おう、おはよ」 「おはよー、タクヤ。コマったら、よく食べるよね」  タマキはうれしそうに、コマにアジをやっている。  コマはタマキの手にかじりつくように、夢中で食べていた。  焼きたての魚が、大好物なのだ。 「吾郎おじさんがくれる魚は、フツーの店で買うよりうまいからな」 「そりゃね。新鮮だし、脂がのっていておいしいのを選んで持ってきてるんだから、トーゼンだよ」  タマキが自慢気に胸をはる。 「そっか。今度会ったら、お礼を言っとこう。また、吾郎おじさんの船に乗りてーな」 「あ、七月になったら、船を出せるって。タクヤもいく?」 「お、マジか! 絶対にいく!」  吾朗おじさんは、漁が忙しくないときに、オレたちを船釣りに連れていってくれるのだ。  とっておきの場所に案内してくれるので、毎回、魚がいっぱい釣れる。  オレたちは、このイベントを楽しみにしていた。 「じゃあ、予定を空けといてよ」 「ああ、わかった」
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