3.ピンチのときはアラーム

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(やばい! くそっ! なにが起こるんだ?)  オレはあせりながらも、目を閉じる。  そして胸をおさえて、大きく息を吸い込んだ。 (大丈夫、きっと、なんとかできるはずだ!)   覚悟を決めて、そっと目を開けた。  まず見えたのは、コンビニのそばで、タマキが水瀬に追いついたところだ。  タマキがうしろから、水瀬に声をかけようとしている。  そのとき突然、道路からトラックが突っこんできた。  二人がトラックに気づいたときは、おそかった。  タマキたちはトラックにはねられ、紙のように宙をとび、どさりと地面に落ちた。  周囲からは大勢の悲鳴が上がる。  倒れたタマキたちは、ピクリとも動かない。  地面には、赤い血の水たまりが、広がっていく……。  テレビのチャンネルを切り替えたように、オレの見えている光景が変わった。  タマキが小走りで、水瀬を追いかけている姿が見える。  トラックにはねられていない、元気いっぱいの姿である。 『現実』にもどったのだ。  さっきまで見ていた悲惨な事故は、これから起こる『未来』のできごとである。 (ふざけんな!!!)  オレは、そんな『未来』を認めない。  絶対に許せない。  タマキたちは、もうすぐコンビニの近く。  さっき見た光景まで、十秒もないはずだ。  気づいたとき、全速力で駆けだしていた。  頭で考えるよりも、体が動いていた。  わき目もふらずに、一直線に。  運動会の徒競走よりも全力だ。 「なっ! どうしたの?」  とちゅうで、タマキの声が聞こえたがムシする。  相手をしている時間はない。  コンビニの手前で、なんとかギリギリ、水瀬に追いついた。  だが、説明しているひまはない。  オレはうしろから、水瀬のことを抱きしめた。 「ごめん。少しだけ、じっとしててくれ!」 「なに? ちょっと……はなして!」  あたりまえだが、水瀬がびっくりしてジタバタと暴れる。  水瀬のことをおさえるために、オレは腕の力を強くした。 「タクヤ、どうしたの! 頭がおかしくなっちゃったの?」  追いついてきたタマキが、目を丸くしている。 「バカ、ちがう! 『アラーム』だ! おまえもそこから動くな! あぶないんだ!」 「え、ウソ! うん、わかった」  オレの能力を知っているタマキは、すぐに言うとおりにした。 「あぶない人なのは、あなたじゃない!」 「イテッ!」  腕に激痛が走り、思わず悲鳴をあげた。  どうやら水瀬にかみつかれたようだ。  お嬢さまでもかみつくのか、と驚きながらもオレは手をはなさなかった。 (絶対に……守るんだ!)  必死に水瀬をおさえていると、すぐに道路から、トラックが突っこんできた。  ちょうど、水瀬がこのまま歩いていたら、ひかれていただろう位置を横切ってである。  ドッガッシャーン!  トラックは駐車場を通り過ぎ、コンビニの壁に衝突して、すさまじい音を立ててとまった。  あたりは大騒ぎになる。  だけど運のいいことに、この事故には、だれも巻きこまれなかったようである。  トラックの運転手は車からおりて、ペコペコと店の人にあやまっている。  どうやら、居眠り運転だったみたいだ。  オレは、ケガ人がいなさそうなことにホッとした。  あたりには、やじうまが次々と集まってきて、騒がしくなる。  遠くから、パトカーのサイレンの音が聞こえてきた。 「すげえ事故だったな……。タマキ、さっさと帰ろうぜ」 「うん、そうだね! ああ、怖かった」  ここに長くいて、事故のことをいろいろと聞かれてもまずいので、オレたちはさっさと帰ることにした。  しかし……、 「待ちなさい!」  するどい声とともに、オレの肩が、ガシッとつかまれる。
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