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奴が悲しみを込めて微笑んだ。
「次のゲノム戦士を創り上げるためにあなたの遺伝子が使われることになったことを不満に思って、あなたを殺そうと企んでいた人達が仲間なの? 私は森の奥にいる仲間に会わせないために、身を引いて欲しくて攻撃したのよ」
俺は言葉を失った。そんなのは嘘だ。俺は仲間を信じている。しかし銃が震えて照準が定まらない。
「私はあなたの優秀な遺伝子を守るために命令されて殺した。あなたの仲間は全て裏切り者で、私はあなたの命を救った恩人なのよ」
俺は奴の言葉を信じることができなかった。引き金を引いて奴を殺そうとした時に奥の茂みから声が聞こえた。
「草壁! 早く奴を殺せ!」
竹下が銃を構えながら茂みから出てきた。銃口は奴ではなく俺を狙っていた。奴が話していたことは本当だったのか。
竹下は銃の引き金を躊躇なく引いた。その時、俺の視界に奴が映り込んだ。奴が俺の代わりに撃たれた。
白い髪が血で赤く染まっていく。俺はすぐに裏切り者の竹下を撃った。涙を流しながら何度も竹下を撃って殺した。
奴の元に俺は走って行った。至近距離で撃たれたので奴も致命傷を避けることができなかったようだ。俺は弱っていく奴の身体を抱えた。
「なんで命を張ってまで俺を助けた?」
「全ては命令に従っただけ。私はあなたという次世代のゲノム戦士を創り上げるために創造された物だから。あなたは将来、私よりも遥かに強い戦士になることが確定しています。あなたは時代に寵愛された人類の宝なのよ」
奴はそう言い残すと笑顔でこの世を去った。その顔は役目を終えて安堵しているように思えた。
俺は悲哀と激しい怒りに打ち震えた。ゲノム戦士を利用する人間を全て葬り去ることを固く誓った。たとえ俺が人類の脅威の存在になっても。
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