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1.キャンプとクマと吸血鬼
1.キャンプとクマと吸血鬼
WVO憲章
WVO(World Vampire Organization= 世界吸血鬼機関)は、人間と吸血鬼がいっしょに生活することを目的とした組織です。
人間と仲よくするために、次のルールを守りましょう。
①人間に正体を知られてはいけません。
②人間の血をキバで吸ってはいけません(ストローは、緊急時のみ可)。
③人間の定めたルール(法律など)をやぶってはいけません。
ルールを守って、楽しい吸血鬼ライフをおくりましょう!
ルールをわざとやぶる吸血鬼には、監察官(インスペクター)を派遣して、お仕置きしちゃいます!
*
小学一年の夏休み。
幼なじみのヒナタの家族と、キャンプ場に来たときのことだ。
「シンヤ。次は、あっちに行こうよ!」
「よし! あの大きな木まで競争だ!」
「うん、負けないよ!」
大人たちがテントを組み立てていたので、オレとヒナタは、キャンプ場の近くを走り回って遊んでいた。
あ、シンヤって、オレのことな。
キャンプ場は、背の高い木がいっぱいあって、オレたちのテンションは上がっていた。
オレたちがいつも住んでいるところと、ぜんぜんちがうからな。
山のおいしい空気を全身で味わいながら、木々の間を駆けぬける。
両親たちのいるキャンプ場からはなれて、山の奥へ、奥へと……。
「キャンプ場の中だけで遊びなさいよ!」と大人たちに言われていたことは、オレたちの頭の中から、すっぽりと抜けおちてしまっていた。
そのせいで、オレたちはとんでもない目にあっちまったんだ。
グォッ、グルルルルル~。
おそろしいうなり声が、あたりにひびく。
山の奥に住んでいた、野生のクマだ。
エモノをさがしながら、ゆっくりと歩いている。
クマの体は、オレたちの何倍も大きい。
体重なんて、十倍以上はありそうだ。
あの大きな口は、オレたちの頭を一口で、まるかじりできるだろう。
あの大きな爪は、オレたちの体を一撃で、切りさくことができるだろう。
こいつに見つかったら、命はない!
オレたちは、しげみのかげにかくれながら、ふるえていた。
クマはエモノをさがすように、鼻をひくつかせながら、キョロキョロとあたりを見回している。
そして、匂いをかぎながらゆっくりと、オレたちのかくれている場所へと近づいてきた。
「わわわわわわっ! こっちに来るよ! シンヤ、どうしよ?」
(シッ、しずかに! 見つかっちまう)
オレはあわててヒナタの口を手でふさぎ、耳もとにささやく。
グルルル、グルルルルッ!
まだ見つかってはないけど、このままだと、時間の問題だろう。
クマの鼻がとてもいいことは、動物写真家である父さんから、聞いたことがある。
(うっ、うっ、うっ……。わたしたち、食べられちゃうのかな……?)
ヒナタの目に、涙があふれてきた。
つかまって、ムシャムシャと食べられることを、想像してしまったようだ。
クマの体の大きさなら、オレたちなんて、ペロリと食べてしまうだろう。
そんなの………………イヤだ!
オレは、覚悟を決めた。
父さんからも、母さんからも、ぜったいにしてはいけないことと、教えられてきた。
じゃないと、オレはバケモノと言われ、この町から追いだされてしまうって。
だけど、「誰かの命を守るためなら、ためらうな!」とも言われている。
きっとこの状況なら、ゆるしてもらえるだろう。
オレは、声を殺して泣いているヒナタの頭に、手をおいた。
(ヒナタ。目をつぶって、頭の中でゆっくりと、みっつ数えてろ)
(え、どうして?)
(いいから。そうすれば、ぜったいにたすかるんだ! だから、ぜったいに、目をあけるなよ! ぜったいだぞ!)
(う……うん、わかったよ)
ヒナタはコクコクとうなずくと、目をギュッとつぶる。
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