1.キャンプとクマと吸血鬼

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「ひとーーーーっつ」  森の中に、ヒナタの高い声がひびきわたる。  グォッ?  クマがヒナタの声に気づいたようだ、オレたちのほうを見た。  頭の中でって言っただろ! 口にだして数えるんじゃねえええっ! と全力でツッコミたかったけど、そんなひまはない。  オレは急いで、腰のポーチに手を入れた。 「ふたーーーーっつ」  ポーチの中から、緊急用の吸血ストローを取りだし、ヒナタの腕にそっとつきさした。  ストローといっても、金属製の細い筒に、先には小さな針がついているのだ。 「みーー……」  この針にさされた痛みはほとんどないので、目を閉じているヒナタは、気づいていない。  オレはストローの先に口をつけて、少しだけ吸い込むと、すぐにストローを引き抜いた。  口の中に、ヒナタの血がひろがる。  甘い!! うめえっ!!!  オレの大好きなコーラの百倍はうまい。  このまま、口の中でゆっくりと味わっていたいが、そんな場合ではない。  すぐに、ゴクリと飲みこむ。  ドクンッ!  オレの中から、何かが目覚めるのを感じる。  体中から、力がみなぎってくる……。 「ーーっつ」  みっつ数え終わったヒナタは、目をあける。  そしてオレの姿を見て、おどろいているようだ。  そりゃそうだよな。 見知らぬやつが、目のまえにいるんだから……。  オレは人間の血を吸うと、吸血鬼に変身することができる。  吸血鬼になったオレは、いつもとまったくちがう姿になるんだ。  銀色の髪と赤い目をしているので、日本人にはまず見えないだろう。 「あなた……、だれ?」 「安心しろ。オレがあいつをなんとかする。おまえはそこにかくれているんだ」  説明しているヒマはないので、オレはヒナタの両肩をつかんで、耳元にささやく。 「……ひゃ、ひゃい」  ヒナタは湯気が出そうなくらい赤い顔になって、コクコクとうなずく。  知らない人をまえにして、緊張しているようだ。  こいつ、こんなに人見知りだったかな?  グオオオオォォォォッ!  オレたちに気づいたクマが、よだれをたらしながら、四本足でダッシュしてきた。 「ダメ……あぶないよ……殺されちゃう」 「だいじょうぶだ、そこから動くなよ!」  オレはクマをにらみつける。  クマはまるでトラックのように、疾走してきた。  草や土、小枝などをあたりに吹きとばしながら、こちらに向かって一直線に。  おちつけ。  きっと、だいじょうぶだ!  吸血鬼は、クマなんかに負けない…………はず。  ヒナタには、ああ言ったけど、内心は不安でしょうがなかった。  あたりまえだろ?  クマと戦ったことなんてないし!  クマってのは、地球上の最強動物ランキングで、常に上位をキープしているぐらい強い。  心臓がイタいくらいに、ドキドキしている。    ええーい! 弱気になってもしょうがない。  先手必勝だ!
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