1.キャンプとクマと吸血鬼

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「灼熱のマナよ、我が手に宿れ!」  オレの手のひらが熱くなって、火の球が生まれる。  サッカーボールぐらいの大きさだ。  父さんに教わった、吸血鬼のスキルであるファイアボールだ。  ほとんど練習したことがないので、威力は大したことはない。  熟練の吸血鬼だと、あたりを火の海にすることができるらしい。 「くらえっ!」  オレはファイアボールをポイッと、クマに向かって投げつけた。  クマは火を見ると、ズサーっと音を立てながら急ブレーキ。  だけど……。 「グォン!」  と一声ほえると、前足でファイアボールをはじき飛ばした。  ジュッという音がして、すぐに炎は消滅してしまう……。  そして、すぐにまた、ダッシュを再開した。 「くそっ! オレのしょぼいファイアボールじゃダメか」  クマの姿は目前にせまり、前足を振り上げる。  足の先の長くてするどいツメが、太陽の光でギラリとかがやく。  ブンッ、ブンッ。 「うおっ、あぶね!」  右左と交互に振り回してきたクマのツメを、ギリギリでかわした。  吸血鬼になったオレは、普段よりも身体能力が格段に上がり、岩を持ち上げる力もあるし、車みたいに早く走ることもできる。  だけど、クマの攻撃をまともに食らったら、ただではすまないだろう。  よくある物語のように、不死身の吸血鬼ってわけじゃないんだ。 「光のマナよ、我が指先に宿れ!」  人差し指の先が、金色に輝く。  親指と人差し指で銃の形をつくり、人差し指をクマに向けた。 「バン!」  オレの声と同時に、人差し指の先から、金色の光線が飛びだす。  とっておきのスキルであるフラッシュだ。  指から飛びでた光線は、クマの目のあたりに当たった。  よし、命中! 「グオオッ、グオオッ」  クマは頭をはげしくふりながら、苦しそうに暴れだした。  何が起きたのかというと、まぶしくて、目がくらんでいるのである。  このスキルは、ただ、まぶしい光を当てるだけなんだ。  相手の目をくらませる以上のことは、できない。  クマは目が見えないので、グルグル回りながら、ムチャクチャに暴れている。  オレはクマの体にぶつからないように慎重に近づくと、左の前足をつかんだ。 「うりゃあっ!」  気合いの声を上げながら、クマのことを投げ飛ばす。  こないだテレビでやっていた柔道の試合のマネをしたのである。  背負い投げってやつだ。  背中から落ちたクマはしばらく動かなくなった。  オレは油断せずに、クマのことをじっとにらみつける。  しばらくすると、クマはフラフラと起き上がった。 「まだやんのか? もう一発食らわせるぞ!」  オレは指を銃の形にして、人差し指をクマに向けた。  すると……。 「グオンッ、グオンッ」  クマはオレに背を向けて、山の奥へと駆けていく。  よし、逃げてった!  オレたちは助かったんだ!  ふー、よかった……。  いっきに気が抜けて、座り込みそうになる。  やばかった~!  フラッシュがきかなかったら、オレたちは、クマのエサになっていたかもしれない。  そう考えると、体がブルッとふるえる。 「すっごーい! ね、ね、あなた、マジシャン? あの炎や光はどうやってだしたの? とってもかっこよかったよ! お名前は? その髪と目の色、すっごくきれい! どこか外国の人なの?」  かくれていたヒナタが、しげみから飛びだしてきた。  興奮しているのか、質問をまくしたててくる。  多すぎて答えられるわけがないし、答えるわけにもいかない。  吸血鬼の正体はヒミツにしなくてはいけないルールがある。 「えっと、あのな……」  こいつには、夢だと思ってもらうことにしよう。  オレはスリープのスキルの準備をする。 「……眠りをつかさどるマナよ、我が腕に宿れ!」  眠りの魔術を唱えながら、腕の中に、ヒナタをかかえる。 「えっ……? なに、ちょっと……いきなり、こんなの大胆すぎるよ……」 「だいじょうぶだ、じっとしてろ!」 「ひゃ……ひゃい」  なぜかヒナタは、また緊張しているみたいだ。  すぐにオレの腕からうすいピンク色の霧が吹きだす。 「なん……だか……ねむ……く」 「おっと、あぶね!」  ヒナタの力が抜けて崩れ落ちるので、あわてて支えた。  様子を確認してみると、スピー、スピーと寝息をたてて、気持ちよさそうに眠っているようである。  これで、よし!  スリープは、はなれた相手や動いている相手にはまったく効かないので、さっきのクマとの戦闘には使えなかった。  じっとしている相手にも成功率が低いので、上手くいったことにオレはホッとした。  クマなんていなかった!  クマから助けてくれた銀髪で赤目の男子なんていなかった!  ヒナタは夢を見ていたのである!  そういうことにしておいた。  オレが吸血鬼であるというヒミツを守るために。  ちなみに、ヒナタから血を吸ってしまったのは、WVOのルール違反ではあるが、緊急事態ということで、ゆるされた。
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