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「……ちゃんと、教えてあげようと、したのに……」
さあ、早く傘をさして!
このときを待って、朝からずっとわくわくしていたのだ。
こうなるように、昼休みのうちに夢菜の傘は体育館の掃除用具入れに隠しておいた。
そして、あの新しいピンクの傘の内側には、おばあちゃんの家の納屋からくすねてきた「危険だから使ってはいけないことになった」処分待ちの農薬がたっぷりまぶしてある。片栗粉みたいな、さらさらした細かい粉だった。
さっき、そのことをちゃんと、教えてあげようとしたのだ。
聞こうとしなかったのは、夢菜だ。
あの傘のキラキラしたボタンを押したら、きっと綺麗な真っ白い粉が雨のように降り注ぐはずだ。
ああ、楽しみだ。
吸い込んだらどうなるんだろう?
そのあと、アイドルのライブDVDなんか、観る余裕あるだろうか?
これからも、梢をいじめる元気があるだろうか?
梢がひっそりと肩を震わせたとき、出入口の外から絶叫に近い女子の悲鳴が弾け、下駄箱が並んだ昇降口に鳴り響いた。
―終―
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