その先

1/1
前へ
/6ページ
次へ

その先

「おじさんに、もっとそっち、もっとそっち、って、追いかけられてぇ……!!」  ノゾムが見た、そのおじさんを思い出したのか、またギャンギャンと泣き始める。  母親は優しく包み込むように抱っこし、右手で頭を撫で始めた。  ノゾムが言うには、電車を追いかけていたはずが、おじさんに追いかけられて、戻れなくなった、ということらしい。 (もっとそっちって、どこなのだろう)  母親は横断歩道を渡って、泣き止ますためにも、しばらく歩いてみた。 この辺には、背の高い草が生い茂っているか、フェンスで囲われた解体現場しかない。  子どもには幽霊が見えると言うが、その類いなのだろうか、と、背の高い草から、紺のネクタイが延びているのに母親は気付く。 よく見れば、鞄や靴も無造作に置いてあった。  母親は足がすくんだ。スーツが見えたのだ。  そよ風が、優しく草を揺らし、スーツ姿のおじさんをあらわにしてくれる。  次に叫んだのは、母親の方だった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加