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その先
「おじさんに、もっとそっち、もっとそっち、って、追いかけられてぇ……!!」
ノゾムが見た、そのおじさんを思い出したのか、またギャンギャンと泣き始める。
母親は優しく包み込むように抱っこし、右手で頭を撫で始めた。
ノゾムが言うには、電車を追いかけていたはずが、おじさんに追いかけられて、戻れなくなった、ということらしい。
(もっとそっちって、どこなのだろう)
母親は横断歩道を渡って、泣き止ますためにも、しばらく歩いてみた。
この辺には、背の高い草が生い茂っているか、フェンスで囲われた解体現場しかない。
子どもには幽霊が見えると言うが、その類いなのだろうか、と、背の高い草から、紺のネクタイが延びているのに母親は気付く。
よく見れば、鞄や靴も無造作に置いてあった。
母親は足がすくんだ。スーツが見えたのだ。
そよ風が、優しく草を揺らし、スーツ姿のおじさんをあらわにしてくれる。
次に叫んだのは、母親の方だった。
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