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222.彼の約束
ここで二人きりで話すのは、小学校の卒業式の日にお別れをしたあの時以来。
当時よりはずっと大きく成長したから、お互いの肩の高さが違う。
「8年前の別れ際に約束した事を覚えてる? 『俺は必ず愛里紗を迎えに来るから』ってね。だから、今日はここに来たよ」
「でも、私と会えるかどうか分からなかったよ」
「会えても会えなくても運命だった。俺達はそれぞれの地で別々の空気を吸ってるうちに、心のタイミングが少しずつズレていた。だから、次にタイミングが合った時にあの時の約束を守ろうってね」
「……」
「もし、今もタイミングが合わなかったとしたら、タイミングが合う日まで何度でも何年かかっても会いに来る。半年後も、1年後も、10年後も、お前だけを一途に愛していく自信があるから」
「翔くん……」
運命の別れの日から8年経っても。
私が大切なモノを守る為に突き放してから3年経っても。
彼はあの日の約束を守る為に、愛おしい眼差しで一途な想いを告げた。
もう……、いいかな。
私、自分の気持ちを我慢しなくてもいいかな。
素直になってもいいかな。
翔くんが3年という歳月をまたいで迎えに来ちゃったし。
あれから咲は木村と幸せを掴み取ったし、理玖もイギリスで夢を追いかけている。
今の私には立ちはだかる障害もないし、翔くんの香りを忘れた代償はもうとっくに払ったよね。
私……、そろそろ翔くんとの未来を描いてもいいよね。
きっと、咲も私達の仲を認めてくれるよね。
理玖も私が笑顔でいる事を願ってくれるよね。
翔くんと幸せになりたい。
大好きだよって。
ずっと傍にいて欲しいって。
私も愛おしいよって。
長年心に留めていた気持ちを吐き出してもいいかな。
今日まで沢山泣いてきたし。
いっぱいいっぱい我慢してきたし。
ブレーキが壊れそうなほど気持ちを引き止めて来たから。
もう、いいよね……。
度重なる恋の障害を乗り越えた時、過去の呪縛から解き放たれた私に真の幸せが訪れた。
ムードの欠片すら感じない古めかしい神社の一角だって、私にとっては人生最高に幸せな恋のステージに。
「これからはずっと傍にいる。約束するよ」
彼はそう言って、恋の自信を満ち溢れさせながら二人の未来を思い描く。
でも、嬉しい反面、散々寂しい想いをさせた罰として、小さなワガママを言いたくなった。
「……迎えに来るのが遅いよ。あまりにも長い時間待っていたから、二人とも大人になっちゃったよ」
「ごめん。これからは二度と待たせない」
「毎日ポストを覗いていたのに手紙が届かなかったよ」
「ごめん。あと一歩の努力が足りなかったから直接手渡せなかった」
「それと、私の大切な親友を傷つけないでよ。あの時は翔くんのせいで大喧嘩したんだから」
「ごめん。あの時は恋の仕方が分からなかったんだ、……お前しか」
彼は春のような温かい眼差しで私の髪を優しく撫でた。
今まで流した涙は苦しかったり辛かったりした悲しみの涙だったけど、いま噴水のように湧き出ているのは嬉しさと喜びに溢れている幸せの涙に。
「9年分の想い、ちゃんと届いてるよ。だって、私も同じ気持ちだから」
「愛里紗……」
愛里紗はそう言うと、カバンの上に置いている恋日記を手に取って翔の前に両手で差し出した。
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