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第七話:親友
突然、頭の中に直接、声が響いた。さっきまで宏太朗と喋っていた女の子の声だった。
――あなたはあたしから、宏太朗さまをとったの。許さないわ――。
気がつくと、僕は二階の踊り場の手すりに足をかけ、乗り出していた。でも、それを止めようと、誰かが必死に僕の腕を引っ張っている。
「たいちゃん! たいちゃん!」
宏太朗の声だ。
「やめろ、たいちゃん! そんなところから飛び降りたら――」
宏太朗? そうか、意識が戻ったのか。よかった……。今度は僕が意識を手放しそうになったとき、頭の中で、悲しそうな声が響いた。
――どうしてそんなに優しいの?
「きみが、僕の親友だからだ!」
宏太朗の叫ぶ声で、僕は正気を取り戻したのだった。どうやら、女の子の声は僕の口から発せられていたようだ。
ぐいっと腕を引っ張られ、宏太朗と二人、踊り場に倒れ込む。ハア、ハアと息を切らす宏太朗は、それだけ必死に僕を止めようとしていたのだろう。言いたいことはたくさんある。だけど、今はそのときじゃない。
建物の中を、女の子の啜り泣く声がこだまする。
「お父さんの言う通りにすればよかった。知らない人とは、もう関わらない……二度と……」
宏太朗が何かを言いかけて、口を噤んだ。次の瞬間、建物の壁や床板が軋む音がして、僕らは瓦礫や古い本の中に呑み込まれたのだった。
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