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――落ちました。
とうとつに言われ、視線を落とす。床にはなにも落ちていない。
不思議に思いながら顔を上げれば、くっきりと目が合った。
迷い込んだ深い森のような髪はしっとりと艶やかで、そこから覗く琥珀色の瞳は仄暗い店内で蠟燭のようにゆらめいていた。
吸い寄せられるようにぼうっと眺めていると、目の前の唇がふたたびひらいた。
雨粒に濡れた躑躅を想起しながら耳をすます。
――落ちました、恋に。
その一言で、とたんに目が覚めた。
十九、二十歳の子どもにそんなことを言われて信じるほど馬鹿でもないし、純真無垢でもない。
急激にやってくる不信感。眉を顰めれば、やっぱりかわいい、と穏やかに微笑まれた。
完全に、からかわれてる。
いまどきの学生のあいだでは大人を口説く遊びでも流行ってるのだろうか。そんな遊びにつき合う暇はない。
それでも、また。
今夜もここへ来てしまった――。
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