助手のお仕事

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助手のお仕事

校長先生のご紹介で、私は教官室にいらした先生方に簡単なご挨拶をした。 先生方の年齢はまちまちで、若干女性が多いかな? という感じである。 「若田先生は、まだ授業から戻られていませんか?」 「先生は、えーっと。まだお教室みたいですね」 校長先生の確認するような問いかけに、どなたかが答えている。 「淡路さんには、若田先生の助手として付いていただきたいと思っています」 「若田先生? ですか」 からり、と教官室の扉を開ける音がして、まだ若い女性が入ってこられた。丸眼鏡に鈍色(にびいろ)の小紋と紺袴を身につけ、きりりとした表情である。その姿からは、厳粛な雰囲気さえ感じられた。 「若田先生、ご紹介します。この方は淡路文子さんとおっしゃる方で、教官助手として我が校に奉職していただくことになりました」 校長先生が私を紹介して下さると、若田先生は私のほうに向き直った。 「若田むめ子です。よろしく。裁縫を教えております」 お裁縫! 私は内心、困ったことになったと思った。なぜなら、私はお裁縫は大の苦手。そんな私に助手が勤まるのだろうか。 私の内心に気付いたわけではないのだろうが、若田先生は 「助手のお仕事は教えることではありません。教官の手足となって、生徒さんが学ぶお手伝いをすることなんです」 と、私の目を見て真面目に言う。 「そうそう。当面、淡路さんがお仕事に慣れるまで、色々ご指導よろしくお願いします」 校長先生の言葉に、若田先生が目を剥いて、 「わたくしが? ですか?」 と驚いたように答えた。
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