助手のお仕事

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そろそろ生徒さんたちが登校してくる時間になって、私は落ち着かない気持ちで、廊下の窓から彼女たちを眺めていた。 ほんの少し前まで、私もあちら側の人間だった。感傷というよりも、不思議な気持ちが強かった。 若田先生も教室から出てきて、私の隣に立った。 「文子さん、授業前に簡単な紹介だけさせてもらいますね。春になって新年度を迎えたら、入学式等で校長先生が改めてご紹介されるそうです」 「紹介ですか?」 「ええ。紹介といっても、お名前だけなんですけど」 先生は悪戯っぽい表情で聞いてきた。 「緊張する?」 「はい! もちろん。授業も、先生の足を引っ張らないようにできるかどうか」 「そんなに身構えなくて大丈夫よ。私も初めての授業の時は緊張したけど。こちらの生徒さんは志の高い人ばかりだから、私たちがすることといったら本当にお手伝いだけなのよ」 若田先生の親しみやすい雰囲気にほっとしながら、つい余計なことを言ってしまった。 「先生は、とてもお優しいですね。昨日は少し堅い感じの方なのかと」 「私が? 」 若田先生はご自分を指差して、驚いたように言った。 頷く私に、先生が微笑う(わらう)。 「私、ひどいあがり症だから、文子さんみたいな綺麗な人を前にして、つっけんどんになってしまったんでしょうね、ごめんなさい」 「そんなふうに仰られると困ります、恐縮です」 「ふふふ。本当のことだし。でも、昨日は少し意地悪なことも思ったの」 「意地悪?」 「文子さんのご指導も私がするんなら、その分のお給金も下さらないと、って校長先生に言いたかったのよ」 若田先生は、どこまで本気かわからないようなことを言う。
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