93人が本棚に入れています
本棚に追加
第一回目の授業
「さあ、始めましょうか」
廊下に生徒さんたちが集まりつつあった。彼女たちの好奇心に満ちた視線を浴びて、私はどぎまぎする。
今日の裁縫科の授業は畳の部屋で行われるので、入り口で全員が草履や靴を脱ぐのを待って、若田先生が私を紹介してくれた。
「淡路文子です。よろしくお願いします」
正座のまま頭を下げると、生徒さんたちも丁寧にお辞儀を返してくれる。
そこには落ち着いた空気が流れ、穏やかさまで伝わってくるのを私は感じる。
若田先生はよく通る声で、生徒さんたちに語りかけた。
「一年の総仕上げの第一回目、今日は布地の裁断です。間違えないよう落ち着いて、でも落ち着きすぎないようにやりましょう」
「まあ! うふふ」
生徒さんたちの中の誰かが、若田先生の言葉に反応して笑った。
「先生、それは無理ですわ」
「落ち着いて、でも落ち着きすぎないようって。難しいです」
裁縫科は、若田先生のお人柄もあるのだろう、和やかで楽しげに勉強しているみたいである。
前もって、小使いさんが運んでくれてあった反物が入ったぼて箱の周りに、生徒さんたちが群がって、さざめきのような話し声が湧き起こる。
最初のコメントを投稿しよう!