第一回目の授業

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第一回目の授業

「さあ、始めましょうか」 廊下に生徒さんたちが集まりつつあった。彼女たちの好奇心に満ちた視線を浴びて、私はどぎまぎする。 今日の裁縫科の授業は畳の部屋で行われるので、入り口で全員が草履や靴を脱ぐのを待って、若田先生が私を紹介してくれた。 「淡路文子です。よろしくお願いします」 正座のまま頭を下げると、生徒さんたちも丁寧にお辞儀を返してくれる。 そこには落ち着いた空気が流れ、穏やかさまで伝わってくるのを私は感じる。 若田先生はよく通る声で、生徒さんたちに語りかけた。 「一年の総仕上げの第一回目、今日は布地の裁断です。間違えないよう落ち着いて、でも落ち着きすぎないようにやりましょう」 「まあ! うふふ」 生徒さんたちの中の誰かが、若田先生の言葉に反応して笑った。 「先生、それは無理ですわ」 「落ち着いて、でも落ち着きすぎないようって。難しいです」 裁縫科は、若田先生のお人柄もあるのだろう、和やかで楽しげに勉強しているみたいである。 前もって、小使いさんが運んでくれてあった反物が入ったぼて箱の周りに、生徒さんたちが群がって、さざめきのような話し声が湧き起こる。
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