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「ほう? それはまた! で、どちらで何をされているのですか?」
公威さんは、私の動向に興味を示して下さったようだ。そう、私なんかの。
「女子職業学校の助手ですの」
「助手? 何か教えていらっしゃるのですか?」
「とんでもない。師範である先生方のお手伝いです」
「そうでしたか。しかし、何れにしても良かった。文子さんがどうされているのか、ずっと気になっていたんです。しかし、私があなたに連絡を取ったりしたら、厄介なことになりそうでしたから」
“厄介な ”
初めて公威さんにお会いした時のことを思い出した。
『でもこいつとはとても気が合って、ややこしい話ではないんです』
利晴様はそう言い、
『これ以上、ややこしい話を続けていくのも、どうかと思うぜ』
公威さんはそう返した。
あの時からずっと、ややこしい話が続いている。いいえ、そもそもの初めから合原家と私の関係は……。
急にサッと冷たい風が強く吹いてきて、私はぶるっと震えた。
公威さんが私を見て気づいたように言った。
「少し寒くなってきましたね。どこかへ移動しましょう」
「ねえ! 浅草まで歩きませんこと?」
律子が思いついたように言う。
「今からですか?」
驚いたように言う今西さんだが、その声は少し嬉しげであった。
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