226人が本棚に入れています
本棚に追加
/139ページ
松本くんはまだ何か言いたげに私を見ている。「私のために持ってきてくれて、すごく気が利くね!」と褒めてほしいんだろうか。それとも「私が喜ぶと思ってくれたんだね! 嬉しい!」と瞳を輝かせてほしいんだろうか。せめていつものように、笑顔で接すればよかったんだろうか。ああ、くたびれている時に面倒くさいなあ。
「渡辺さんー」
どうしようか少し困っていたところで、声を掛けられた。
宮西さんだ。どきどきする。
「俺ー、また振られたー」
なんでそんなプライベートな話を。そう思ったけれど、松本くんが空気を読んで立ち去ってくれたから、少しほっとした。
宮西航平さんはいつも爽やかな好青年だ。身長は平均より少し高いくらい。姿勢がよいので、ピシッとプレスされたスーツと清潔感のあるシャツにきっちり締められた品のいいネクタイがとても映える。癖のない端整な顔立ちをしていて、よく響くいい声で明るくはきはきとした受け答えをする。嫌われる要素がない。
ゆえに、こんなにべろべろになった姿を、私は初めて見ている。
「またって、そんなに振られるように、見えないんですけど」
私の言葉に、宮西さんはしょんぼりと答える。
「俺ー、言葉攻めが好きなんだけどー」
「……は?」
最初のコメントを投稿しよう!