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――よし。
俺は意を決した。
とりあえずなんとか軌道修正を試みたい。相手を知るところから始めよう。島田本人はとても感じの良い男だ。心の中でぶち抜くとか考えていても、実際に言われたわけではないのだから。……いや大丈夫か、俺?
「あー……なんだっけ。そうだ島田くん。この前話した時、運動不足って言ってたろ? 俺スポーツジムに通ってるんだけど……一緒に行ってみないか? もし良かったら」
いきなりすぎたかな、とは思ったが、社員食堂で一緒になるだけの距離感ではどうにもならない。思い切って誘ってみる。どうなるか知らんけど。
「ジムですか? 行ったことなくて」
「好きなだけ好きなもん食って、カロリーを消費すればいいんじゃないかな。まあ、食事のバランスは考えたほうがいいんだけどな」
「それは理に適ってますね」
島田の顔にぱっと光が差したように見えた。理に適う、とか返しが硬い気するけどそこは島田の味わいということで。……やっぱり感じは良いんだよな。そして俺のノイズを軽減してくれる、貴重な人材でもある。
うん……誘って良かったんだよな。
あちらのペアは控え目に何か言い合っていたが、島田が乗り気で迷いがなくなったのか、ふっと姿を消した。
「島田くんは今ちょっと細すぎて心配。折角見た目に恵まれてるんだから、少しでも鍛えたら今よりもっとかっこよくなるよ」
「そうですかね? どうも僕は目立つばかりで、臆してしまうんですが」
「え、もったいない」
目立つ外見というのも一概に良くはないのかな。それで未だに恋愛の壁を超えられず、未経験、とか? だからって俺に走るのは違うぞ。
俺の言葉に島田は照れたように視線を外したが、少しの沈黙のあとやがて俺に向き直った。
「結城さんの筋肉がすごくきれいについてて、そういうのいいなって憧れていたので。だから誘ってくれて嬉しいです」
「……今日も行くけど、予定は?」
「行きます」
やはりスーツの上から視姦……いや、鑑賞されてたのか? 島田の視線の先には俺の大胸筋。触られているわけでもないのに、なんだか落ち着かなくなった。
……ほんとに良かったんだよな? 自信なくなってきた。
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