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島田は可愛い男だ。
可愛いと言ってもちゃんと成人した男の可愛さで、むしろかっこいいと表現したほうが良い。こんな恵まれた見た目と優秀な頭脳を持った男が、何故か決まった相手もなく俺と食事をしている。
なんで俺なのか知らないが、どうやら島田側に下心があるようなのは気づいている。だけどそれ以上に、俺はこいつが傍にいてくれると精神的にとても楽なのだ。手放したくない。……ずるいか。ずるいな俺。
島田は引き続き魚に苦戦していて、天使と悪魔が早く骨をどうにかしろだとか、黙れウリくん頑張ってるんだとか騒いでいた。俺はなんとなく手出ししたくなって、向かいの皿を自分に寄せる。
「ちょっとウリくん魚貸して」
「――ウリ……」
「えっ? あっ!」
言ってからしまったと思ったが時既に遅し。完全に無意識だった。うっかり島田天使の言葉が感染ってしまっている。顔が熱くなるのを感じて必要以上に焦ったが、島田はそれ以上突っ込んでこない。あ、スルーすんの?
「ありがとうございます」
「ああ……いや、魚の骨取るの苦手そうだから。手出ししてごめんな」
「次からもっと上手くできるよう練習しますね。……あの、結城さん」
「んー……?」
気を取り直して魚の骨を取りながら生返事をしたら、次の言葉にやられた。
「紡久さんて呼んでもいいですか? 社内ではわきまえますので」
――照れるんだけど?
攻めてくるなあ島田。何さらっと紡久さん呼び提案してくれてるんだ。さっきのウリくん呼びを受けての対応だろうか。やっぱり何か思うところあったんじゃないか。
断る理由はないが、なんだかムズムズして仕方ない。本気で俺を落としにかかっているのか。いや落ちたって全然……。いいのか、俺。軌道修正を試みるんじゃなかったのか。
だけど……うん。いいのかも知れない。
ただ、誰かとこんな微妙な感情のやりとりをするのが久々なので、自分自身戸惑っている節があった。頑張れよどうしたいんだ結城紡久。
「俺もウリエルって呼んだほうがいいのかな……?」
「ウリくんでもいいですよ」
「――いや、うん。それは」
「でもどちらかと言えば大和のほうが嬉しかったりします」
「え……? 大和……って他の人が呼んでるの聞かないなそういや」
「ウリエルがインパクトあるみたいですね。……やっぱり島田でいいです」
あっさりと返されたので、俺の名前呼びはなんとなく流れた。残念な気もした。……大和って響き、好きだけど……やはりなんとなく照れが勝ってしまった。
「馬鹿だなウリエル! そこはもっと食いついてやって、紡久さんの心を揺さぶれよ。このヘタレ。すかしてんじゃねえぞタコ」
「ウリくんのペースで仲良くなればいいんだよ。焦ったって仕方ないよ」
「ふん。まあでも魚については良い仕事したんじゃね? 実際下手くそなんだけど。箸なんて持てりゃいいよな」
「お箸は慣れだから、頑張ろ。ね♡」
「箸より何より、とっとと紡久さんを攻略しろ! 俺はウリエルがあのくそエロい体を好きにしてるとこ早く見たいぞ」
……うん。うん。
知ってた。もう理解せざるを得ない。島田は俺をそういう目で見てる。まあいいやそういうポジションでも。ここまでわかりやすいと、ちょっと諦めモードが入ってきた。軌道修正どころではなく揺らぎのない潔さ。しかし言葉の悪い悪魔だな。俺そんなにエロボディか……?
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