5話 諦めにも似た

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「あれ、雨ですね」  小料理屋を出ると、いつのまにか小雨が降り出していた。もう七月になり梅雨の季節は終わったと思っていたが、やはりまだ傘は必要だ。俺は折り畳みの傘があったが、島田は持ってきていないようだった。小雨とは言え駅まで歩くと結構濡れる。 「二人きりになれるとこ連れ込めよウリエル」 「いろいろすっ飛ばしすぎだってば!」  また始まった……。  うちのアマネルたちを見習えとは言わないけど、こいつらは衝突が多すぎる。そして口数が多くてやかましい。それのせいか雨だからか、少し頭痛がしてきた。頭が重い。一瞬ぐらりと体が揺れる。 「紡久さん、大丈夫ですか」  早速俺を下の名前で呼んだ島田は、頭痛で少し顔をしかめていた俺に気づき、心配そうな目を向けた。 「飲みすぎたかな。いつもの片頭痛が少し」 「どこかで休みます? あ、傘がないので半分借りていいですか。僕が持つので」 「え、いや俺が」  島田は俺の手から折り畳み傘をするりと取り上げると、有無を言わさず頭上に掲げた。ぽつぽつと響く雨音が耳に心地良い。 「……島田って、身長いくつ?」 「六・一フィートです」 「身長聞いてフィートで返すやつ初めてだよ。ざっくりしてわかりにくい」 「一八六センチです。実はまだ少しずつ伸びてます」  俺もけして低いわけじゃないけど、でかいな。いやもう二十歳過ぎたら止まっとこうよ成長。 「ちなみに俺は一七八あるんだけど……フィートだと何?」 「約五・八フィートですね。一フィート三〇・四八センチメートルになります」  さっと答えるなよ。少しは考えて。  そういえばフィートの話、前もどこかでしたような気がするけど……思い出せない。雨の中そんな話をしながらしばらく歩いていたが、やはりお互い肩が濡れてきてしまった。 「……タクシー拾いましょうか」  言い方にどこか艶があったので、思いがけずどきりとする。タクシーでどこに行くのかな、なんて余計なことがよぎったが普通に家に帰った。島田の住まいは会社が借り上げている単身者用のマンションで、俺の家よりそちらが近かったので島田が先にタクシーを降り、そこで別れた。  まだ頭が痛い。  今日はもう、帰ったらすぐに寝よう。  タクシーの窓ガラスを打つ雨の音が、徐々に強くなってきた。
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