5話 諦めにも似た

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   ✢ ✢ ✢  誰かの声が聞こえる。  誰だっけこの人。名前を思い出せない。 「紡久、一緒に水族館行こう」  うん。俺ハンマーヘッド・シャーク見たいなあ。え、水槽に酔った? 大丈夫? どこかで横になる? 「紡久と水族館に来られて良かったよ。予想以上に可愛い紡久も見られたし……いいアイデアが浮かびそうだ」  そういうの恥ずかしいからやめてよ。 「え、気持ち良くなかった?」  ……良かった、けどさ。 「遊びにおいで。歳の離れた弟がいるけど気にしないでね」  名前はなんていうの。✕✕さんに似てるね。 「大和(やまと)だよ。……今は僕のことをちゃんと見て? 見てくれないとお仕置きするよ。どんなお仕置きがいいかなあ」  ……ごめん。見てる。 「紡久、今日は泊まれる? どう?」  ……どうって。 「わかってるよね?」  ……うん、まあ。 「紡久は素直で良い子だな。新しい世界を見せてあげようか」  (ひろ)✕さん……なんか、おかしいよ。何これ。体が変になる。 「もう一度この前の試させて。もっと脚を、そう。力抜いて全部受け入れて。大丈夫。紡久はえらいね。上手だよ」  ……苦しい。  これは、なに。……大翔(ひろと)さん……。 「紡久……今、どんな感じ?」  駄目だよ。駄目……おかしい。こわれる。  なにかへんなかんじが。  あたまがおかしくなる。  だれかがおれのこころにはいってくる。おれのすべてがのみこまれる。  ――誰だっけ、この人。大翔さんて。  俺に何をした? 俺に何を求める? この世はこんなにも利己的で、欲望にまみれ俺を汚染するのか。  どこまで行っても雑音だらけだ。静かな場所を求めてもそんなものは存在しない。  俺の中に()()が在るかぎり。 「大丈夫、もう忘れていいんですよ」  この声は……。  優しい声、誰。 「目を閉じて、耳を塞いで。……今は眠ってください」  ……おやすみ、天使(アマネル)
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