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誰かの声が聞こえる。
誰だっけこの人。名前を思い出せない。
「紡久、一緒に水族館行こう」
うん。俺ハンマーヘッド・シャーク見たいなあ。え、水槽に酔った? 大丈夫? どこかで横になる?
「紡久と水族館に来られて良かったよ。予想以上に可愛い紡久も見られたし……いいアイデアが浮かびそうだ」
そういうの恥ずかしいからやめてよ。
「え、気持ち良くなかった?」
……良かった、けどさ。
「遊びにおいで。歳の離れた弟がいるけど気にしないでね」
名前はなんていうの。✕✕さんに似てるね。
「大和だよ。……今は僕のことをちゃんと見て? 見てくれないとお仕置きするよ。どんなお仕置きがいいかなあ」
……ごめん。見てる。
「紡久、今日は泊まれる? どう?」
……どうって。
「わかってるよね?」
……うん、まあ。
「紡久は素直で良い子だな。新しい世界を見せてあげようか」
大✕さん……なんか、おかしいよ。何これ。体が変になる。
「もう一度この前の試させて。もっと脚を、そう。力抜いて全部受け入れて。大丈夫。紡久はえらいね。上手だよ」
……苦しい。
これは、なに。……大翔さん……。
「紡久……今、どんな感じ?」
駄目だよ。駄目……おかしい。こわれる。
なにかへんなかんじが。
あたまがおかしくなる。
だれかがおれのこころにはいってくる。おれのすべてがのみこまれる。
――誰だっけ、この人。大翔さんて。
俺に何をした? 俺に何を求める? この世はこんなにも利己的で、欲望にまみれ俺を汚染するのか。
どこまで行っても雑音だらけだ。静かな場所を求めてもそんなものは存在しない。
俺の中にアレが在るかぎり。
「大丈夫、もう忘れていいんですよ」
この声は……。
優しい声、誰。
「目を閉じて、耳を塞いで。……今は眠ってください」
……おやすみ、天使。
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