6話 夢の残滓

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 顔も洗わず床に座り込んだ佐野が、早速朝食に手を出した。 「うん、旨いな。ちょっと量少ないけど」 「文句言うな。パンが二枚しか残ってなかったんだよ。おまえが急に来るから」  俺だって足りないけど仕方ない。佐野は悪びれもせずモゴモゴと眼の前の朝食をあっという間に平らげてゆく。 「テレビつけていい?」  佐野は俺の返事を待たずにテレビのリモコンを操作した。折角静かだったのに佐野が起き出してから賑やかだ。朝の情報番組では昨日あった出来事や、芸能人が結婚したり薬物で捕まったりと悲喜こもごもな話題を取り上げていた。 「薬物……って、なんでやるんだろうなあ。リスクしかないだろ」 「誘惑に負けちゃうんじゃない?」 「誘惑ねぇ。――お、きれい」  次の話題に切り替わり、夏のリゾート特集が始まる。海外の美しい風景、魅力的な観光スポットなどが次々と紹介され、しばし目を奪われた。以前行きたくて予定を立てたのに、行けなかった場所。いつか行けたら良い。 「そういや俺、なんだかんだで日本出たことなかったなあ」 「なんだかんだ?」 「予定立てても、なんかタイミング悪くて行けなくなるんだよ。誰かに邪魔されているような気がする」 「陰謀説? 結城を日本に閉じ込めといて、なんか変わるの? あっ、スパイかなんかなん? 誰にも言わないから教えて」  佐野は何故か目をきらきらさせて俺ににじり寄った。食いつくポイントがわからない。しかし俺をこの国に縛り付けておく理由など皆無だ。たまたまなんだろうな。くそ。 「なあ結城。そんなことより、その後()()どうした?」  リゾート特集が終わり佐野の興味が他に移ったのか、話題がまた変わった。 「あ? ああ、案がだいぶ煮詰まってきたし、この前会議で出たプランを進めようかと」 「ちげーし」  仕事の話かと思って話し始めたら不満そうに中断された。え、なんだよ。 「島田だよ。結城ここんとこ仲良さそうじゃん。もうヤッた?」 「――何を?」 「え、俺の口から言わせるの? 結城のえっち」 「まだ酒が残ってるんじゃないのか……シャワーでも浴びて抜いてこいよ」 「はい、結城主任がセクハラします!」 「どこがだ」  朝からヤッたのヤらないの下世話な男だ。佐野は大きなあくびをして、食べ終わった食器類をキッチンに運んでゆく。 「洗う。ごちでした」 「おう」 「そしたらシャワー貸してね」 「着替えも貸すか?」 「結城の彼シャツ着てくん? やだ萌え袖になっちゃう」 「半袖着てけよ」
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