6話 夢の残滓

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「誰かに見られたら誤解されちゃうかも? 一、昨日と同じシャツとネクタイ! どきっ! 結城の家から朝帰り? 二、なんかぶかぶかのシャツで出勤! どきっ! あれって結城の彼シャツ? ――なんてなははは。どっちが良いかな。折角だから既成事実作っとく?」  冗談とも本気とも取れぬことを言いながら、佐野は浴室に消えていった。頭大丈夫か。しっかりしろ。    ✢ ✢ ✢  佐野を助手席に乗せた車で通勤し、駐車場から会社まで二人で歩いてゆくと、エントランスホールで島田に出くわした。今日は半袖の白シャツを爽やかに着こなしているが、相変わらずノーネクタイだ。俺はネクタイないと落ち着かないけどな。 「おはようございます、結城さん……と、佐野さんですよね」  何故かピリッとした空気を感じて、俺は若干怯む。 「おはよう島田」  昨夜は俺を紡久さんと呼んだが、社内ではわきまえると宣言したとおり、ここでは呼ばないつもりらしい。佐野は「おはー」と軽く言うと、すたすた先に行ってしまった。同じ部署へ行くのに置いていかれた。もしかして気遣い? あるいは逃げたのか。よくわからない。 「仲良いんですね」 「同期入社で同じ部署だからなあ。昨日うちに泊まって、さ」  と言ったは良いものの、言わないほうが良かっただろうか。いや、やましいことなど何もない。島田はちらりと佐野の去っていったエレベーターに目をやったが、すぐにこちらに向き直った。 「あれ結城さんのシャツですか。サイズが佐野さんに合ってない」 「貸したけど……着替えがなかったからさ。いや、あいつたまに突然泊まりに来るんだ。俺んち会社から近いから便利なんだよ」  聞かれてもいないのにべらべら説明してしまう。なんだこれ、浮気の言い訳みたいな。違うのに。 「そうですか。――今日は僕、社員食堂行かないので探さないでくださいね」  島田もなんか勘違いしてないか? そして怒ってるのか? まさか嫉妬か。 「では失礼します」  島田はきれいな顔に明らかな作り笑いを浮かべ、俺に背中を向けた。なんだよ途中まで一緒に行ったっていいだろ。
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