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7話 可愛いがすぎる
週末、仕事帰りのトレーニングが終わったあとのシャワールームでの出来事だ。またしても天使と悪魔が島田に自己主張していた。こんなに出てくるのって、もしかしたらあまりないかもしれない。賑やかで楽しそうだが、言っている内容は俺にとってあまりスルー出来る内容ではない。何も聞かなかったふりをするのも大変だ。
「今夜こそ紡久さんを部屋に誘っちゃえよ。昨日一生懸命片付けていたじゃないか。明日は休み! お泊りして寝過ごしたって問題ない♡」
「付き合ってもいないのにお泊りなんて駄目! ウリくん、線引きはちゃんとしよ?」
「なんだよ! この前佐野だって紡久さんち泊まってたじゃん。あれは付き合ってるのか? 違うだろ」
「それは同期の人だから。付き合ってるわけじゃなくても、泊まっていいの」
「おまえ本気か!? 今に寝取られるぜ。紡久さんのエロボディが夜通し傍にあったら、そりゃなんかするわ」
「みんながみんなそんなこと考えてないよ!」
……やはり行き違いがあるらしい。
先日の佐野お泊り事件は島田の中で尾を引いているようだ。もう一度ちゃんと説明したほうが良いのだろうか? いや、蒸し返してどうする。余計言い訳がましい。
アマネルとグレネリの関係性とは違い、この二人は意見の相違が甚だしい。まあそれが普通だ。普通だけど……島田の思考回路を覗き見しているみたいで罪悪感が募る。本人は礼儀正しい丁寧な子なのにギャップがすごい。しかし……。
はっきりと島田の口から、付き合いたいとかいった意向は伝えられていない。まあ俺の場合相手の天使と悪魔がそのことで言い争っていれば察してしまうが、やはり本人から言われていないものを勝手に判断することは出来ないのだ。
この能力は便利と言えば便利だったが、時には知りたくない情報まで知ってしまうことだってある。
「例えば何を知りたくないんだよ?」
グレネリが疑問を投げかける。これは自問自答のようなものだ。
そもそも通常はこのような情報入ってこないわけで、恋愛における醍醐味がまず薄い。盛大なネタバレをされた上で、映画やドラマを観るような感覚に近いか。だがその情報はすべてではなく切り取られた一部分。最終的には自分の判断が必要となる。
島田は俺をどの程度のポジションに置いているのだろう。どうせならずっと同じ相手と上手に付き合っていきたいのが俺の信条だ。遊びで同じ職場の人間と関係を持つことは出来ない。多分過去のうまく行かなかった恋愛が関係しているんじゃないかと思う。信頼関係を築けなかった。心の底から信頼し合える仲に、なれなかったのだ。
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