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何故このような特殊能力を授かったのか、経緯はよくわからない。しかし俺にとってノイズであることのほうが圧倒的に多いため、むしろいらない能力だ。
そしてこのことは周囲の誰にも言うべきではない。トラブルの元となる。
「オコチャマはわかってないな。からあげはギルティそしてジャスティス! からあげがこいつの胃と欲望を満たすんだ」
罪深き正義。二律背反的だがなんとなくわかる。
「そんなの一時凌ぎだよ。長い目で見て」
「さあどうするウリエル……己の本能に従え」
「ウリくん……悪魔の言葉に耳を傾けちゃ駄目!」
対象的な二人が喧嘩をしている。
天使と悪魔の会話は、宿主の葛藤の発現。このように天使と悪魔というのは相反する意見を持つのが定石だ。人の持つ迷いが生み出す不可思議な存在。そして宿主が優柔不断であればあるほど、より相反する。島田は優柔不断なのだろうか。あるいは単なる食いしん坊なのか。
――まあ、それは置いといて。
俺を担当している天使と悪魔は、様子が他と違っていた。
今日はキーマカレー……いや、とんこつラーメン……あるいはきつねうどん……あ、これは島田天使の意見か。頭の中で昼食のメニューを考えている俺の傍で、いつものように天使アマネルと悪魔グレネリが各々意見を向けてきた。
「結城さん、昼食を決めかねていますね。ここは私の助言を参考にして……」
俺とは似ても似つかない可憐な天使、アマネル。いかにも天使といった絵画に出てきそうな美貌はまばゆく輝き、もし他人にアマネルが見えていたなら虜となるだろう。
一体彼の容姿はどこから? 他の天使と悪魔の姿かたちは大抵本人にルーツがあるのに、アマネルについてはよくわからなかった。これまでに蓄積された天使のイメージが、アマネルを作り出したのかもしれない。
それを遮るように、悪魔グレネリが割り込んできた。グレネリは綺麗に筋肉のついた細マッチョで、顔つきや体型がかなり俺に類似している。自分の理想体型、その最終形態と言っても良い。
「結城、昨日天ぷら蕎麦だったろ? 今日はカレーにしろよ。ナンが旨いんだ。もちもちでいくらでもイケる」
まあ確かにな。
「今私が言おうとしたところですよ。きつねうどんは一昨日も食べましたし、ラーメンも麺繋がり。カレー一択でしょう。何よりここのシェフのカレーは筆舌に尽くし難く美味」
カレー、食いたいね……。うん。
「おいアマネル、まずは一旦オレの反対意見を述べてくれないか?」
「グレネリこそ、私の真似しないでください」
「いやオレが先にカレーって」
「元々私もあなたの意見を聞く前からカレーでしたよ」
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