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8話 特別な感情
シャワールームを出た廊下で、島田がしゃがみ込んでいた。着替えてドアから出てきた俺をちらりと見、再び謝罪される。
「紡久さん、本当に申し訳ないです。見るつもりではなくて」
「いや、もういいけどさ。気にしすぎだよ島田。同性の裸なんて見たって問題ないし」
あまり気にされてしまうと、逆にこちらが気を使う。
蛍光灯が切れかかっているのか、ちかちかと明滅するのがふと気になった。変えてやれよなんて今はどうでもいいことを考える。島田の表情が曇っているのは蛍光灯のせいだろうか。
「よくはありません。心拍数が倍増しますし、余計なことを考えて心が乱れます。何故なら僕は紡久さんに単なる同性以上の、特別な感情を抱いているからです。端的に言えば好きです」
「――お、う」
前触れもなく告白されて、俺は停止した。
俺が……俺がさ。島田を誘導してやろうと考えている矢先の告白。まあ、結果オーライなんだろうけど予想外で、次になんて言ったら良いのか頭が真っ白になった。
しゃがんでいた島田は、立ち上がって俺の方に歩いてきた。
「迷惑でしょうか?」
「……え、いや。そういうんじゃ……なくて、さ」
顔が近くてどきりとする。少し目元が赤い。そして壁ドンみたいになってないか? 本当に泣いた? うう、体の奥がそわそわする。俺も好きって言っちゃえよ。年上ぶって上手いこと言おうとするな。
さっきまでわあわあ騒いでいた島田の天使と悪魔は、今はまるで出てこない。島田の迷いがなくなったのだろうか。
もう言おう。俺も好きだからって。
しかし口を開きかけたタイミングで、島田が続けた。
「もし迷惑でしたら今のうちにはっきり言ってください。早急になんらかの代替案を打ち出します」
「……仕事の話かな?」
なんか変なスイッチ入った。
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