9話 AMANel《アマネル》

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 硬いなあ。俺も好きだって伝えたのに。  親しくなってもこの口調は変わらない。いつもならこんな時、茶々を入れてくる天使と悪魔たちは何故か静かだ。 「今すぐどうこうという話ではないので、あまり構えずに聞いて欲しいのですが、結城紡久さん。将来的にあなたの脳は過負荷に耐え切れず、壊死する可能性があります。これはあくまでも最悪の場合を想定しています。今のところ他に症例がないので、僕のシミュレーション結果になりますが」  ――は。  何の話、だったっけ? 「あなたの神経細胞(ニューロン)に干渉している『AMANel(アマネル)』が脳を過剰に活性化し、少しずつ蝕みます。AMANelとは『広く・すべてにわたり』などの意味を持つ『(あまね)く』という言葉と、天使の名前を意味する『el(エル)』を合わせた造語で、脳の潜在能力を増幅させる非合法薬物(ドラッグ)です」  ――。  急に世界が不安定になった。ぐらりとした。  島田の言葉に強い目眩を覚える。いきなり何を言っているんだろう。 「……俺そんな薬物飲んだ記憶ないし、禁断症状っていうの? そういうのもない……んだけど。島田……また変なスイッチ入ったのか。すごい立て板に水だぞ」  思わず茶化したくなる。けれど島田は至極真面目に説明的な言葉を吐く。 「それはAMANelが恒常的にあなたの体内で自然生成されているからです。原因として考えられるのは今のところ過去の過剰摂取(オーバードーズ)が挙げられます。……可能性としてですが」 「自然……生成って。薬物が? 俺の中で? そんな馬鹿なことが……あるわけない」  もういいよ。わけわからんし。やめてくれ。  そんなの、知らない。聞いてない。俺も知らないことを島田が何故知っている。  アマネル?  俺についている天使の名前が、何故島田の口から出てくるんだ。まるで予想外のところから攻められたので頭が追いつかなかった。 「あれぇ、なんで知ってるんでしょうねえ大和くんは」  ふとアマネルの声が耳元で聞こえた。ゆっくり声のした左側を見ると、美しい天使が優しく微笑んでいる。ぞくりとした。グレネリはなんだかそっぽを向いて何も言わない。沈黙が怖い。 「そこに何かいますか? 紡久さん」 「え? ……天使と、悪魔が」  普段なら絶対に言わない天使と悪魔の存在が、俺の口から漏れる。アマネルは慌てるでもなく、静かに佇んでいた。
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