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硬いなあ。俺も好きだって伝えたのに。
親しくなってもこの口調は変わらない。いつもならこんな時、茶々を入れてくる天使と悪魔たちは何故か静かだ。
「今すぐどうこうという話ではないので、あまり構えずに聞いて欲しいのですが、結城紡久さん。将来的にあなたの脳は過負荷に耐え切れず、壊死する可能性があります。これはあくまでも最悪の場合を想定しています。今のところ他に症例がないので、僕のシミュレーション結果になりますが」
――は。
何の話、だったっけ?
「あなたの神経細胞に干渉している『AMANel』が脳を過剰に活性化し、少しずつ蝕みます。AMANelとは『広く・すべてにわたり』などの意味を持つ『遍く』という言葉と、天使の名前を意味する『el』を合わせた造語で、脳の潜在能力を増幅させる非合法薬物です」
――。
急に世界が不安定になった。ぐらりとした。
島田の言葉に強い目眩を覚える。いきなり何を言っているんだろう。
「……俺そんな薬物飲んだ記憶ないし、禁断症状っていうの? そういうのもない……んだけど。島田……また変なスイッチ入ったのか。すごい立て板に水だぞ」
思わず茶化したくなる。けれど島田は至極真面目に説明的な言葉を吐く。
「それはAMANelが恒常的にあなたの体内で自然生成されているからです。原因として考えられるのは今のところ過去の過剰摂取が挙げられます。……可能性としてですが」
「自然……生成って。薬物が? 俺の中で? そんな馬鹿なことが……あるわけない」
もういいよ。わけわからんし。やめてくれ。
そんなの、知らない。聞いてない。俺も知らないことを島田が何故知っている。
アマネル?
俺についている天使の名前が、何故島田の口から出てくるんだ。まるで予想外のところから攻められたので頭が追いつかなかった。
「あれぇ、なんで知ってるんでしょうねえ大和くんは」
ふとアマネルの声が耳元で聞こえた。ゆっくり声のした左側を見ると、美しい天使が優しく微笑んでいる。ぞくりとした。グレネリはなんだかそっぽを向いて何も言わない。沈黙が怖い。
「そこに何かいますか? 紡久さん」
「え? ……天使と、悪魔が」
普段なら絶対に言わない天使と悪魔の存在が、俺の口から漏れる。アマネルは慌てるでもなく、静かに佇んでいた。
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