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「紡久さんは他人の思考を可視化することが出来ますね? あなたが持つ潜在能力の増幅結果がそれです。他の薬物とは違い、それは幻覚や妄想などではない。僕があなたに抱いている感情や、迷い、そんなものまでも知っている」
「――島田、なんで」
怒っているわけではないのだろうが、島田の口調はあまりにも硬質で、親しくなったと思ったのは俺だけだったのだろうかと不安になる。
好きだって言っているんだ。その話をしよう? なんで俺を好きなのか、教えてくれたら安心する。俺も島田のこういうとこが好きなんだって言える。島田はほんとに会話が下手だよな。
「あらかじめ言いますと僕は同意のない性交渉などしませんから、そこは安心してください。あなたを傷つけるためではなく、リカバリするために近づいた。わかりますか?」
性交渉? なんでそこまで話が飛ぶ? さっきから思考がまとまらなくて、わけがわからない。
「つまり……?」
島田は俺から視線を外し、箸を置いた。何秒かの逡巡があったのち、硬かった口調が和らいだ。
「僕の体液は、AMANelを抑制する効果を持っています。事前にアルコールの摂取量を伺ったのは僕自身の調整のためで。……これまで重ねて行ってきた臨床実験により、薬物投与時と同様の経路で抑制剤を投与するのが一番効果的なことがわかっています。……それで、ですね」
いや……何が? 体液? 唾液とか? 血液?
島田は言い淀むように間合いを取った。なんだかさっきから何を言っているんだか、理解に苦しむ。
「問題は何故そんなことになったのかの経緯です。あなたはかつて交際していた男性、島田ルヒエル大翔、僕の実の兄ですが……彼との性交渉時に過剰摂取が起こりました。――それ以降ではないですか? 他人の思考回路が見えるようになったのは。そのためあなたは監視対象であり定期的にデータを取られています。……紡久さん?」
大翔……どこかで……。
……ええと。
いつから俺は、天使と悪魔の姿を見るようになった。大翔? と別れたのは何故だった? よく覚えていない。混乱しているのか。単に忘れているだけなのか。
「もう忘れましょうね」とアマネルが俺に優しく微笑み、俺は不要な記憶を頭から消し去った。周囲からの情報量が多いから、過去を忘れて行かないと決壊してしまう。あまり覚えていると頭が痛くなる。
「……大丈夫ですか?」
「百文字に要約してくれ」
テーブルに置いてあったビールの缶を開け、それをあおった。味が感じられなかった。島田は少しの間考えるようにしてから、短く要約した。
「あなたが自然生成しているAMANelは脳への負担が大きく、将来的に壊死の可能性があります。体液にAMANelの抑制効果を持つ僕との性交渉が解決策として挙げられます」
一旦ここで言葉を切った。要約が終わったらしい。それなんてエロゲだよと突っ込みたくなる。
「音声にして百文字ジャストです。ゲーム的で意外と面白いですね」
いや怖いわ島田。
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