10話 意識的な思考回路

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10話 意識的な思考回路

 頭痛にこめかみを抑え、顔を歪めながら先程も飲んだ味の感じられないビールをまた流し込む。今度は少し味わいが戻ってきたのでほっとした。 「どうしますか」  百文字要約以降俺が何も言わずに食事しているため、島田はどうしたら良いのかわからないようだった。少し待ってろ、今テーブルの上片付けるから。俺は片手で島田を制し、食事に専念した。島田はそれをじっと見て、同じく食事を再開した。  ――どうするかと問われても。  島田は最悪の場合を想定してものを言っており、すぐさまどうというわけではないらしい。だからと言ってこの問題を単純に保留にしておくには、俺には情報が少なすぎた。にわかに降って湧いたトンデモ発言に、ああそうですかと納得するのも難しい。 「いろいろ聞きたいことはあるんだけど、急に詰め込んでもきっと理解出来ない。少しずつ確認させてくれないか」  お互い食事が終わり、ローテーブルの上を飲み物だけにして落ち着いたところで、俺は仕切り直した。 「はい、なんなりと」 「島田は一体何者なんだ?」  一番疑問なのはそれだ。何故いろいろ知っているのか。問い詰めるような俺の声音に、島田はどこか悲しげな表情になる。 「――責めてるわけじゃなくて。単純な疑問だよ」 「まあ、そうですよね。……僕は本来、主に人体に害をなす薬物の抑制緩和の研究を行っており、今もそういった研究機関に所属しています。紡久さんの会社への出向は、あくまでも一時的なものです」 「出向は聞いてたけど……え、自動車会社とは畑違いじゃないか」 「それは後段で述べます。……僕は抑制剤を作る際、試行錯誤の末に自分の体を器に使用しました。結果、体内にあるほぼすべての体液がAMANelを抑制する成分に置き換わっています。僕自身に起こった自覚のある変化と言えば、肌の色がこのようになったことと、食が以前より進むくらいですが。なんかおなかすくんですよね」  さらっと大変なことを言ってくれたので俺は呆れた。体を器にだと? 狂気の沙汰ではないのか? 取り返しのつかないことになったらどうする。なんでそんな危ない真似をするんだ。 「――馬鹿なのか?」  思わず口から出てしまった言葉に、島田の声は微妙に小さくなる。 「……抑制剤自体はとっくに完成しているはずなのに、何故か紡久さんに対しては満足な結果が得られなくて。それで……」 「え、なんだよそれ」  これまで抑制剤なんて投与された覚えもない。 「処方されている頭痛薬の中に有効成分が入っているんです。経過観察して、経口で投与しても抑制効果がないという結論に至ったため、先程僕が言った性交渉という方法に帰結しました。僕の体は条件に合っていたので……」
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