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11話 愛情プラス
島田の舌先が俺に触れた。唇をなぞる感触がエロティックで、思わず体に力が入る。緊張しているのか、俺は。
「なんで俺のこと好きなんだ……っけ」
開いた口を甘噛みするようにされて、腰の辺りがそわそわした。一旦閉じた瞼を薄く開けると、島田は何故か眉間にしわを寄せている。
「理由……必要ですか?」
「ないのか」
島田は難しい顔をして、しばし明後日の方向を見る。
「なんで……と言われると……。すっかり忘れてるようなので会社では自己紹介から始めましたけど……紡久さんは僕のこと、以前は大和って呼んでました。その頃からずっと好きなんですよね」
「……覚えて……ないんだわ。ごめん」
耳元で囁かれて、ぞくぞくと体が反応する。言葉の合間に何度も俺にキスを落とされる。
「気にしてません。……で、理由は考えたことなかったので、今改めて考えてみました。僕にとって紡久さんの存在は、救いだったのだと思います。家のものは僕のこと基本放置ですし、周りは同年代皆無で疎外感あるしで……。だけどそれがどういう『好き』だったのか、当時はよくわからなかったんでしょうね。あなたは大翔と付き合っていたし」
大和……。
……大和……。
……うん。思い出そうとしたけど、やっぱり覚えてない。なんだか申し訳ない。俺その辺の記憶本当にすっぽ抜けていて、島田のことも覚えていない。覚えていたら当時の恋人の苗字と一緒だって気づくだろうし……まあ、「島田」は特段変わった苗字じゃないけど。
「紡久さんがいなくなってから、それが恋だと気づきました」
島田は床に転がした俺を起こすと、今度は体を抱き込むように引き寄せた。
――あ、心音が近い。
表情にはあまり出さないのに、島田の心臓ばくばくしてる。そういや俺の裸見て耳まで真っ赤にしてたなあ……。体温が心地良いな。
「覚えてなくてもいいんです。僕が覚えてるから。紡久さんの過去はいらないので、今と未来を僕にくれませんか」
恥ずかしげもなく、すごいこと言ってる。こっちが恥ずかしくなってくる。プロポーズかな……。
囁くような吐息に、体の力が抜けた。島田は時間をかけて俺の舌を舐めるように愛撫したり、口の中を探るようにしていた。島田の存在をひしひしと感じるキスに、俺は体の芯まで蕩けそうになっていた。
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