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……うわぁ。
これが島田検閲のもと俺に晒していい本音と建前。普通こんなこと考えてるのが相手に見えるなんて、恋愛において邪魔者でしかない。島田はOKなんだ……変わってんなこいつ。そしてまた出た手間。なんの手間だ。
だけど愛情表現一択。その言葉に俺は揺れた。そういうことだよな……わかってんじゃん島田の悪魔。
それ以外のわけわからん理由で島田とそうなるのが嫌なのだ。
俺のほうはどうなんだろうか。
さっきアマネルの雰囲気に恐怖を覚えたのはなんだったのか。自分の中に意識を向けてみると、アマネルはすぐ傍に存在していた。グレネリの姿は見えない。
「私たちは、必ずしも一対ではないんですよ」
どういうことだろう。
「私は結城さんを肯定するため、心を守るために存在しています。だから否定はしない。あなたの背中を押して見守るのです。あなたの人生はAMANelによって壊されましたからね。ちゃんと人間らしく生きられるように、あなた自身を維持するために、忘れているほうが良いと私は判断しました」
……壊された。
不穏な言葉を言われて俺は息が苦しくなった。表面上覚えていなくても、本当は覚えているのか。
「――グレネリはあそこに」
アマネルは俺の背後を指し示した。見慣れた俺の部屋、振り向くと姿見鏡が置いてある。そこに俺が映っているだけだ。なんだろう、グレネリは俺自身だというのか。
鏡の奥に紅黒い闇が広がってゆく。
俺の顔にグレネリが重なった。悪魔の酷薄な笑み。こんな表情をするのか。
「条件がようやく出揃った。思い出せよ結城。大翔にされたことを含め、すべての記憶を。今こそ契約を果たし、この紅煉が地獄の門を開く」
すっと血の気が引いて、俺の意識はそのまま遠のいた。島田の腕が伸びたような気がしたが、それが現実なのか夢なのかすら俺にはわからなかった。
――轟音とうねりが押し寄せてきた。
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