13話 紅煉《グレネリ》

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13話 紅煉《グレネリ》

「紡久、今日は泊まれる? どう?」 「どうって……」 「わかってるよね?」 「……うん、まあ。大丈夫」 「そう言えばたまたま僕の友人が見かけて教えてくれたんだけど、この前紡久は大和と外で会ったよね。……僕のいないとこで会うのは駄目だよ」  大翔さんの声は優しく聞こえたけれど、その奥にはじっとりと湿った怒りが見え隠れしていた。 「……え、いや。ごめんでも別に変なことは」 「変なことって何かな。大和とセックスしたいの? まさかもうした? 僕のじゃ物足りない? 紡久はいやらしい子になっちゃったね。僕だけでは満足出来ないんだ……?」 「そんなこと……絶対ない!」  否定しか出来なかった。妙な誤解をされるのは俺にとっても大和にとっても良くない。 「ほんとに? 証明出来る?」 「証明……って」  どうやって証明しろというのか。大翔さんは少し考えてから、突然にこりと笑った。 「紡久は素直で良い子だな。そんなことしないよね……そうだ。きみに新しい世界を見せてあげようか。もっと気持ち良くしてあげる。僕だけ見ていられるように」  何度体を重ねても、ベッドでの俺の反応が今ひとつ奮わないのに気づいていたのかも知れない。だから大和との関係を疑うのだ。だけと違う。苦手なのだ。自分の体が変わっていくことへの抵抗もあった。それでも大翔さんが気持ち良さそうにするので、はっきり断れないでいた。  その夜大翔さんは俺の中に何かよくわからないものを入れて、優しくと言ったら聞こえはいいが、じっくり観察するように時間をかけて抱いた。嘘をついていないか、ちゃんと感じているのか、どこが気持ち良いのか、すべて曝け出すのは恥ずかしかったが許して貰えなかった。  入れられた()()はやがて体の奥から全身にくまなく拡がって、過敏になった神経をごりごりと刺激してくる。もしかしてこれは先日大和が注意喚起してくれた薬なのではないかと、気づいた時にはもう遅かった。全身の穴という穴を犯されているような未知の感覚に陥り、頭が錯乱する。こんなの正気を保てるはずもない。 「大翔さん……なんか、おかしいよ。何これ。体が変になる」  気持ちのうえではちゃんと喋っているつもりだったが、意味のある言葉になったのかどうかはわからない。大翔さんに、伝わらない。
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