13話 紅煉《グレネリ》

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 ――離脱症状がひどい。放っておくと舌を噛み切ります。暴れないよう拘束具を。  ――苦痛から逃げるためか体内で開発中の成分と非常に類似……むしろそれを凌ぐものが自然生成されています。これはほぼ理想の完成形。素晴らしい。  ――被験者R……Ruhiel(ルヒエル)のゲノムを取り込んで複雑に変異しているため、『(あまね)く』と『el(エル)』を合わせて『AMANel』と名づける。効果に相応しい、美しい名だ。  ――被験者Yは私達の心をどこまでも読んで非常に危険……人体実験……軍事利用も視野に……最悪は殺処分……サンプルとして生かして国と人類の発展に貢献を……これは崇高な……国外には出せません流出の恐れがある……。  ――抑制剤の研究を並行して進めます。AMANelに似たゲノムが必要ですね……被験者R自身は既に薬物汚染済で使えない。彼の肉親である島田ウリエル大和を代わりに手配……。大丈夫、言うことを聞かせます。  ――あの子は頭の出来が格段に良い。このままこちらに取り込みましょう。ウリエルは断れない……いざとなったら被験者Y……結城紡久という切り札があるのだから。  他人の思考回路が無遠慮に流れ込んできて、俺の考えていることなのか他の誰かの声なのかの区別がつかなくなる。  俺はもう、  人ではないのか。 「助けてやろうか」  すぐ傍で声が聞こえた。  ここには誰も入ってこないはず。この声の主は一体誰なのか。目だけ動かして周囲を伺うが、誰もいない。 「オレはおまえの中の悪魔。おまえ自身と言っても良い。だが紛らわしいので名を紅煉(グレネリ)としよう。おまえが混沌の中で名づけた」  グレネリ……。  悪魔……。
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