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14話 傍観と思惑
俺の意識が朦朧とする中、ドアホンが鳴った。島田が壁に取り付けられたモニタを確認し、そこに映った来訪者の顔に眉をひそめる。
「……はい?」
硬質な声で対応し、少し逡巡したものの階段を下りて玄関を開ける。そこに立っていたのは佐野だったようだ。また前触れもなく泊まりに来たのだろうか。
「おやぁ島田くん。こんな時間にお邪魔だったかな。お楽しみ中だった?」
「邪魔ですよ、帰ってください」
「冷たっ。会社の先輩に向かってその口の利き方はないなー。ほらほら上がらせて? 家主ぶっ倒れてんじゃん」
「何故それを?」
玄関から部屋の様子は見えない。佐野は階段を軽快に上ってきて床に倒れている俺の脈を取るように手首を触る。瞼を開いて瞳孔の確認をすると、うなじをそっと撫でた。
「……結城……」
返事は出来ない。俺の意識は過去を見ている。佐野が何をしに来たのかもどうでも良かった。今の俺に、傍観者以上の価値はない。
「なんでしょうか。用件なら僕が聞きます。このタイミングで来たのは、何か言いたいことでもあるんでしょう」
「ちょっと結城ベッドに寝かせるから、そっち持ってやってくんない」
「僕一人で出来ます」
「あーそ。はいどうぞ」
警戒している島田の空気が伝わったらしく、佐野は苦笑いしてやり過ごし、俺のベッドの布団をめくった。島田が俺の体を支えてそこに運び、横たえたところで佐野が布団を掛け直す。
「はい、お布団ふぁさー。ちょっと寝てなよね。……結城かーわいい♡」
「――で? なんですか佐野さん。僕たちの会話を聞いていたんですね。回収しますので盗聴器の場所を教えてください」
「え、知らない」
佐野はしらばっくれて、寝ている俺の体を布団の上から寝かしつけるようにぽんぽん叩いている。なんとなく落ち着くリズムだ。
「そんなわけない。あなたは結城さんの監視をしてる。佐野さんがこの部屋に泊まった翌日、本部に確認を取らせていただきました」
「ああなんだご存知? じゃあ邪魔すんじゃないよ童貞くん。きみに役割があるように、俺には俺の役割ってもんがあるの。とっととヤッたら良かったのに律儀に説明してるからさぁ。シンプルに好きだからヤラせて! でいいと思わん? 余計なこと話すから結城へそ曲げて、おかげで今夜のおかずなくなっちゃったじゃん」
島田の眉間にしわが寄る。聞いていなければ知り得ないことだ。
「……やっぱり盗聴器あるんじゃないですか。どこです」
「いやー。どこだったかな。大丈夫、俺のこと気にせずいたしちゃっていいよ? 録音はしてないからさ」
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