14話 傍観と思惑

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「なになに? する? 今日はオレね、受けちゃんの気分。アマネルに優しく抱いてほしいな」 「あれ、奇遇です……んー困りましたね。ではダイスで決めましょうか」  ころころと闇の中でダイスが回り出した。      ✢ ✢ ✢  俺はぼんやりと目を覚ました。仄明るい常夜灯が部屋を照らしている。ここはどこだ……あの病棟では……ない。  ……俺の部屋だ。ここは会社の傍に借りているメゾネットの一室。俺はベッドに横たわっている。隣に誰かの気配を感じて寝返りを打つようにゆっくりと振り向く。 「……紡久さん……」  島田が眠るでもなく俺を見つめていた。心配そうな表情が顔全体に見て取れた。 「あれ……なんで」  はっきりしない頭で声を発する。それを聞いて少しは安心したのか、島田がほっと安堵のため息を漏らした。  ……ああ。  地獄の門とやらが開いたのだ。俺は忘れていた過去の記憶をいきなり戻された。胸焼けしそうな狂気。あんなことがこの身に降りかかるなんて、誰が想像するだろう。普通に生きてきたはずの俺が。  ――大和。  後悔の念が沸々とわいてくる。大翔さんの仕組んだこととは言え、大和にひどいものを見せてしまった。しかも大和自身まで巻き込まれることになるなんて、知らなかったんだ。 「大和」 「……え」 「大和ごめん」 「……何がです?」  島田……大和が俺の体をぎゅっと抱き寄せた。大和の体温と匂いに包まれ、俺の力が抜ける。なんでこんなに落ち着くんだろうか。俺はまだ眠りの中にいるのか。夢ならいいか。少しくらい甘えても。 「大和……大和……」  再びはっきりしなくなってきた意識の中で、俺はひたすら大和と繰り返す。どうしたら良いのか戸惑ったように俺を抱き締めている大和のシャツのボタンを外し、その小麦色の肌に直接触れた。 「落ち着くんだ……大和の匂い」  顔を肌にくっつけて体の匂いを吸い込む。大和の心音が聞こえる。リズムが早い。ああ、可愛いな大和。好き。……好き。俺のだ。 「少しこのままで……」  俺は心臓の辺りに唇を寄せる。大和の熱が心地良くて、俺はそのまま完全に意識を手放した。
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