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15話 大和
やたらとすっきりした目覚めの朝だった。いつもならアラームが鳴ってから五分間、再度アラームが鳴るまでひとしきり布団の中でぼーっとしているのが、今朝は違う。いつもはジョギングしている間にすっきりしてくるのが、既にはっきりと覚醒している。朝とはこんなにも清々しいものなのか。
夢見はめちゃくちゃ悪かったのにな。……本当に、夢だったら良かったんだが、多分違う。朝から思い出すことでもない。考えを払うように頭を振る。
「……いや、待て」
いつもと違うのは目覚めだけではない。
「大和……えっと……いや島田」
無意識に「大和」なんて出てきてしまい、俺は戸惑う。そうだ思い出した。俺は過去島田に会っている。俺は大和と……そう呼んでいたのだ。
俺の隣で安らかな眠りを貪っている男の小麦色の肌がまぶしい。なんでこいつがここにいるのかは、俺もまあわかっている。
昨日なんだかんだ情報量過多なことがあって、途中悪魔グレネリの所業により俺の意識が飛んだ。島田がベットに運んで寝かせてくれたのは、なんとなくだが覚えている。佐野が来ていたような気もするが、その辺は曖昧だ。どこまでが現実なのだろう。
俺はそのまま眠りの中にいて、朝を迎えたのだろうと思われる。問題は島田が俺の隣で眠っていることだった。たまに佐野も俺のベッドに闖入するが、島田はサイズ感が違いちょっとはみ出している。しかも、半裸。え、半裸で寝るの? それともなに、もしかして……。
「マジか……え、ヤッた? いや……そんなことは」
覚えていない。
だけどもしそうなら、……え、いやわかるよなさすがに。
想像して恥ずかしくなり、変な声が出そうになる。思わず自分の口元を片手で覆った。島田にされたキスのことを思い出して心がふわふわする。
「あ、紡久さん……良かった起きた……おはようございます……」
おたおたしていたら、島田がとても眠そうに、目をこすりながら声を絞り出した。朝に弱い感じか。それとも、よく寝ていないのか。
「うーん……眠……もう少し……」
再び島田は俺の隣ですやすやと眠り出した。知り合う前にも思ったことだが、やっぱりサーバルに似ているな、こいつ。大きい猫。
俺はまず現状をどうにかしようと島田をベッドに残してそこから抜け出し、目覚ましにシャワーを浴びる。
なんとなく過去の記憶が体にまとわりついている気がして、洗い流したかったのだ。あの時の記憶は一生のトラウマもんだ。大翔さんの姿をした誰かにこの体を好き勝手されたのは、幻なのか現実なのか。幻だと思いたかった。
「いかん忘れよう。取捨選択」
朝のルーティン……ジョギングはどうしようか。今日はのんびり……いやでもルーティンだし。うん。
「おぉい大和、俺ジョギング行くけどついてくる?」
「ん……ん、はい?」
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