15話 大和

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「いろいろ思い出したんだけどさ。俺ってどれくらいの間、世の中から消えていたんだろうか。……あ、この辺のこと大和は把握してるのか?」  外で話して良い会話か判断出来なかったが、NGならストップをかけるだろう。思い出したはいいが、やはり隔離病棟にいた時の時間の流れがよくわからなくて、ふと疑問になったのだ。  周りに聞いている人がいないと判断したのか、大和が記憶を探るように呟いた。 「紡久さんが大学に入った翌年の、十ヶ月間ほどの出来事かと。交通事故に遭って長期入院していたことになっています。その間休学扱いで。紡久さんはだから、他の人より一年遅く大学を出てますよね」  十ヶ月か……長いな。その地獄からなんとか生還したわけか。グレネリが交渉したらしいけど、そこは覚えていない。無理に補完することもないのか。 「OD(オーバードーズ)で意識が戻らなくなって搬送されたのはあなただけだったけど、うちの(くず)もしばらく入院してましたね強制的に」 「うちの屑」 「隠語です。外なので念のため」 「まんまだな」 「子供だったなと、思います。もっと正しく物事が見えていたら、あなたを苦しめることもなかったのに」 「――少なくとも大和のせいじゃないだろ」  声のトーンが明らかに落ちたので、俺はその背中をぽんと叩いた。  大和が悪いわけじゃないのだ。  俺のガードが緩いのが、いけない。グレネリにも言われたことだった。  しばらく黙っていた大和が、ある地点で急に立ち止まった。 「……おなかすきました」  何を突然、と思ったら大和は通りすがったハンバーガーショップの看板をじっと見つめていた。食いしん坊だなおまえ。……ああ、抑制剤の件で食が進むって言ってたか。でもこの店はまだ開店前だ。どこかやっているところを探さないと。 「体の変化……って、ほんとに肌の色と腹が減るだけなのか? 他にも症状あったりは……」  ふと心配になって尋ねたら、大和は少し言いにくそうに声のボリュームを下げた。 「実はもうひとつあって。警戒されると嫌なので言わなかったんですけど」 「え、なんだよ」 「……やたらと紡久さんに欲情します。役割を果たそうとしているのかも」 「そ、そうなんだ……ふうん」  何か本能的な部分なのかな。なんだか落ち着かなくなったが、大和は冷静に続けた。 「でも僕には理性があるので、性欲だけに従ったりはしません。とりあえず朝食にしませんか。もう少し行くと二十四時間営業のファミレスがあります。食欲を満たします」  大和の腹がぐうと鳴った。
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