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大和の部屋にはノートパソコンの置かれた机と、ゲーミングチェアと呼ばれる椅子が壁際にあり、食事をするようなスペースは見当たらない。一人で適当に食っているんだろうか。
ベッドは大きめで、薄手の掛け布団が枕元辺りに畳まれている。シンプルな部屋だ。本棚にはよくわからない本の群れの横にカラフルなキューブパズルがいくつか。
「大和ってキューブ好きなのか?」
「手先の運動とリフレッシュを兼ねてます。やります?」
本棚からひとつ手に取り俺に差し出されたスタンダードなキューブは、思っていたよりもするすると動く。
「うお、めっちゃ滑りがいい」
「シリコンスプレー吹いてるんで……あ、闇雲に動かしても揃いませんよ」
「知らんけど。ほら」
大和にキューブを返すと、目の前でカチャカチャ動かしてあっという間に六面揃えてくれた。何、今の魔法か。
……大和の手、でかくてきれいだな。なんか色っぽい。爪は短く揃えられてて清潔感があって。手フェチってわけじゃないけどうっかり見とれていたら、色の揃ったキューブを本棚に戻された。
些細なことではあるが、プライベートの大和を知れるのはなんだか新鮮で嬉しかった。何が好きなのか、普段どう過ごしているのか、小さなことでも知りたい。
こんなに誰かに興味を抱くのって、そういえば久しぶりだな。……好き、だからか。俺はずっと、誰のことも好きにはならなかったのか。
「コーヒー淹れてきますね。椅子かベッドにでもどうぞ」
ベッドは緊張するので、椅子に腰掛けた。だけどなんだか落ち着かなくてそわそわとしている俺を見て、キッチンに向かおうとしていた大和は方向転換した。何故か俺のすぐ目の前まで戻ってくる。
「もしかしたらですけど……紡久さん、僕としたくなりました?」
「何故……」
「なんかそんな感じに見えたので。……します? これから」
唐突だな。変な汗が出てくる。
どうしよう、こんな朝も早くから。窓から差し込む陽射しに照らされて初めて訪れた大和の部屋で抱かれるのか。せめて夜。……とか悠長なこと言ってるとまた機会を逃すんだろうか。
ぐるぐると考えて無言になっていたら、大和が身をかがめて近づいた。顔面の破壊力そして身長の暴力、あと……なんだろう、ジョギングで軽く汗をかいた大和の……なにこれ落ち着く。癒やし。なんで癒やされてんだよ俺。
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