16話 ゆらぎ

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 もしかして体液が抑制剤に成り代わっているということは、皮膚表面の水分も効いているのか。この匂い好き。  前から感じていた大和のリラックス効果はこれなのかな……。  ぼーっとしていたら、椅子に座ったまま壁へと追い詰められる形になった。 「どうします?」  こいつ……俺の言質を取らないとことを進めないのやめてほしい。同意のない性交渉はしないと確かに宣言されたけど、雰囲気でわからないか。 「――したい」  なんとか絞り出した言葉に、本当に同意を得られるとは思っていなかったのか、じわじわと大和の顔が赤くなって目をそらされた。え、可愛いかよ。  ……好きだな。  俺が大和をずっと気にかけていたのは、それがこいつだったからなのか。俺が監視対象になる前から知っている、大好きな大和だったから。 「大和が大事に取っといてくれた『初めて』を……ありがたく貰う」  いい匂いのする体を引き寄せて、俺は息を吸い込んだ。 「え、……じゃあ僕シャワー……今……あ、一緒に入ります?」 「おまえの汗の匂いかいでたいから、このまま……駄目か?」 「――」  俺の一言で、何かまた大和のスイッチが入った。何か言いかけて、だけど言語化出来なかったのか結局は無言で、大和の腕がまわされ少し強引なキスをされた。昨日されたのとはまた違う、抑制効果がどうとかいう意図のない衝動的なキス。……わかりやす。  本当に、大好きだ。    ✢ ✢ ✢  開いていた遮光カーテンを閉めると、部屋の中が一気に薄暗くなる。もどかしくお互いの着ているものを脱がせるのがこんなに緊張するのって今くらいか。すぐに慣れちゃうもんなのかな。慣れたくない。いつまでもどきどきしていたい。 「――紡久さんの体って、なんでそんな罪深いんですか」 「何言ってんだ?」 「いえ……改めて目の当たりにして……駄目です僕の頭今全然仕事してません。なんで再会したらそんなエロボディになってるんです」 「いやそんなつもりは」 「理性的に対応出来なくなるじゃないですか」 「じゃあ好きにしろよ」  思わず苦笑いが漏れた。大和は元から俺の体が好きって言ってたじゃないか。いくらでも見せてやるし、触ったらいい。  対して大和の小麦色の肌はとても若くしなやかで、だけどこれが俺に抑制剤を作った際の結果なのだと思うと、とても申し訳なく思った。似合ってはいるけど、急に肌の色変わるとか怖くないかなって。自分が変わってゆくのは、怖い。  なんで大和がそんな目に遭わないとならないのか。俺のせいか。大翔さんのせいか。……わけのわからない、薬物(ドラッグ)のせいか……。
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