16話 ゆらぎ

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 過去の記憶は俺にとって苦々しいものだったが、それは大和にとっても同じなのではないか。大翔さんと仲違いし、俺のために抑制剤の器になるなんて、よく考えたらひどすぎる話だ。大和の人生、俺に捧げたようなもんだ。  ……大切に、したくなった。 「なにを考えてます?」  俺の内心を察したのか、大和が優しい声を出した。どこか甘えたような響きが含まれていてきゅんとする。年下っていいな……俺リードしてやったほうがいい? いや、とりあえず大和の好きにさせてみよう。  ……今気づいたけど、基本的に受け身なんだな俺は。そりゃ大和の悪魔に受け(ネコ)認定されても仕方ないか。 「可愛いなって」 「僕はいつ紡久さんの中で『可愛い』から『頼れる男』になるんでしょうね」 「……いいじゃん別に。可愛くて頼れる男になれば」  仕方ないだろ、大和が可愛くて仕方ないんだ。  大和の体重が俺にかかって、ベッドがぎしりと音を立て沈んだ。心臓が痛いほどの鼓動と、やわらかなシーツの感触と、大和の匂いに溺れる。 「なんで気が変わってくれたんです?」 「――大和が体張って作ってくれた抑制剤だろ。無下に出来ないなって、思い直した」  思い出した記憶の中で流れ込んできた他人の声に、どうして大和がこの件に絡むことになったのかの答えがあった。わけのわからない組織に、無理矢理組み込まれたのだ。  ……俺のために。  自分が何を思ってこの数年を過ごしてきたのか、大和は口にしない。過剰にわちゃわちゃと騒ぐこいつの天使と悪魔は、俺に何かを悟られまいと、思考をコントロールした結果なのではないか。  苦しくなった。   「だから、こだわるのやめた」 「そう……ですか」  不思議そうな顔をしている大和を見て、自然と笑みが漏れた。全然、余裕なんてないけど。  身の置き場に困るような緊張とか、相手の普段見ない表情とか、息づかいとか、……いろいろなものが混じり合う。俺の体の上を移動する、大和の大きな手がやたらと熱く感じられた。 「ちょっと雰囲気壊すことしますけど……必要なので」  俺の体を確かめるように愛撫していた大和が、ふとベッド脇に目をやった。 「何だそれ」  始める前に大和が冷蔵庫から出してきたものが、ベッド脇に置かれていた。ワクチン容器のような密封されたものと、チューブ状のもの。
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