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過去の記憶は俺にとって苦々しいものだったが、それは大和にとっても同じなのではないか。大翔さんと仲違いし、俺のために抑制剤の器になるなんて、よく考えたらひどすぎる話だ。大和の人生、俺に捧げたようなもんだ。
……大切に、したくなった。
「なにを考えてます?」
俺の内心を察したのか、大和が優しい声を出した。どこか甘えたような響きが含まれていてきゅんとする。年下っていいな……俺リードしてやったほうがいい? いや、とりあえず大和の好きにさせてみよう。
……今気づいたけど、基本的に受け身なんだな俺は。そりゃ大和の悪魔に受け認定されても仕方ないか。
「可愛いなって」
「僕はいつ紡久さんの中で『可愛い』から『頼れる男』になるんでしょうね」
「……いいじゃん別に。可愛くて頼れる男になれば」
仕方ないだろ、大和が可愛くて仕方ないんだ。
大和の体重が俺にかかって、ベッドがぎしりと音を立て沈んだ。心臓が痛いほどの鼓動と、やわらかなシーツの感触と、大和の匂いに溺れる。
「なんで気が変わってくれたんです?」
「――大和が体張って作ってくれた抑制剤だろ。無下に出来ないなって、思い直した」
思い出した記憶の中で流れ込んできた他人の声に、どうして大和がこの件に絡むことになったのかの答えがあった。わけのわからない組織に、無理矢理組み込まれたのだ。
……俺のために。
自分が何を思ってこの数年を過ごしてきたのか、大和は口にしない。過剰にわちゃわちゃと騒ぐこいつの天使と悪魔は、俺に何かを悟られまいと、思考をコントロールした結果なのではないか。
苦しくなった。
「だから、こだわるのやめた」
「そう……ですか」
不思議そうな顔をしている大和を見て、自然と笑みが漏れた。全然、余裕なんてないけど。
身の置き場に困るような緊張とか、相手の普段見ない表情とか、息づかいとか、……いろいろなものが混じり合う。俺の体の上を移動する、大和の大きな手がやたらと熱く感じられた。
「ちょっと雰囲気壊すことしますけど……必要なので」
俺の体を確かめるように愛撫していた大和が、ふとベッド脇に目をやった。
「何だそれ」
始める前に大和が冷蔵庫から出してきたものが、ベッド脇に置かれていた。ワクチン容器のような密封されたものと、チューブ状のもの。
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