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17話 不可視化
気を失うように昼過ぎまで撃沈していた俺は、久しぶりすぎる事後のけだるさを味わう。初めてにも関わらずだいぶ健闘してくれた大和のおかげで、俺はすっかり疲労困憊していた。
大和くらいの年齢の男の、性欲というか体力というか……甘く見ていたのかもしれない。
良かったけどさ。好きなやつとするのって、良いな。
大翔さんはもしかしたら、俺を道具みたいに思ってたんじゃないだろうか。俺の都合とか関係なく、しかも変な薬使ったりして。独占欲も凄かった。独占欲……というか、支配欲かな。
だけど大和はちゃんと俺の意思を尊重してくれる。俺が過去の出来事から不安にならないようにだろうか、雰囲気をぶち壊しかねない不要とも思える説明までつけてくれて。
疲労感はあるけど、心と体は満たされていた。大和の愛情をたくさん貰えた気がする。
「はあ……好きだ」
心の声のつもりだったが、実際に声に出ていた。大和をちらりと見るが、気づかず眠っている。昨夜も俺が倒れたせいで寝不足だったみたいだ。
お疲れ様。経験ないもんな。加減もわからんよな。……うん。
――やりましたね結城さん! ヤキモキさせられましたがなんとか初めてを迎えられて感慨深いです♡
――年下童貞男子にぶち抜かれた感想は? いやいいなあ若いって。
……なんて。
頭の中でいつものような天使と悪魔のやり取りを想定してみるが、実際にどちらも俺に話しかけてはこなかった。
「消えた……のかな」
大和の抑制効果なのか、これが。数年俺の傍で大騒ぎしていた存在が急にいなくなる。
いや、あれは本当にいたわけではない。俺が単に、AMANelの効果とやらで可視化していただけに過ぎなかった。
自分自身のあいつらが見えないのだから、もう他人の思考回路も見えなくなったに違いない。大和もまだ寝ているから判断出来ないけど……。
うん、まあ普通だ。寂しい気もするが、元に戻っただけなのだ。
「紡久さん、おなかすきました」
ベッドで考え事をしていたら、いつのまにか起きていた大和が俺の体を引き寄せた。さすがにもうやめておこうと思ったのか、単にぎゅっとくっついてくる。可愛い。大和可愛い。相変わらず食いしん坊。けど確かに腹は減った。
「買いに行くか? 夜は、一緒に何か作ってみようか」
どうせ冷蔵庫には大した食材もなさそうだった。
✢ ✢ ✢
マンションの近所にあるショッピングモールのフードコートで先に食事を済ませ、腹が落ち着いたところで一緒に夜の食材を選ぶ。うちの会社の休みは月火で、今日は月曜日。昼下がりの店内は主婦層が多く、俺たちは少し浮いていた。
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