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3話 意図的な出会い
次に島田に会えたのはちょうど一週間後の昼休みだった。
俺も外に出たりで毎回来ているわけではないが、どうも昼のタイミングが合わないようだ。俺は社員食堂に行くたび、なんとなく彼の姿を探していた。もしや避けられている? と思い始めた今日、島田は何事もなく俺の隣にやってきた。
「結城さんこんにちは。お隣失礼します」
「……おう。久しぶり?」
「研修に行ったり開発のかたと外で食べたりして、なかなか来られませんでした。これ研修のお土産です。部署内で余ったので、もし良かったら」
ぽつんと差し出されたのは、包装にどこかのゆるキャラが描いてあるまんじゅうだった。
「ありがとう、俺甘いの好き。――研修ってわりとある感じ?」
「今回はあるサンプルの回収と修復について、急遽研修が入りました。機密事項なのでこれ以上は言えないんですが」
サンプルってなんだろう。うちは自動車会社だから新しいパーツとかシステムかな? 機密と言っているのを聞き出すほど俺もしつこくはないので、世間話として流すことにした。
「――ところで結城さんてお酒飲むとしたらどれくらいですか」
「ん? まあ人並みに」
「具体的に酒量どれくらいですか」
「グラスに二、三杯くらいかな? 種類にもよるけど、あんま飲むと頭痛がひどくなるんでほどほど。なに、飲みに行くの」
もしかして飲みに誘われているのか? と思ったが、島田は少しの間何か考えるような表情をして、すぐに「今日はキーマカレーにしてみました」と謎の返しをした。会話がところどころ行き止まりな感じがする。もしや会話下手かな。
キーマカレーは先日俺が頼んだメニューだ。やはり気になっていたのだろうか。もっちりしたナンを千切り、島田はそれを食べ始めた。
「旨いだろ?」
口に頬張りながら、島田が頷く。
「この前勧めていただいたのに、素直に食べれば良かったなって。……結城さんは、今日は焼肉定食ですか。それもいいな」
「味見するか? いいぞ別に」
「……じゃあ、一口」
なんだか反省してるけど、そんなこと気にしなくていい。そしてやっぱり食いしん坊だ。なんか可愛いな。
……あ。まただ。
ふと気づく。俺の周りに存在する有象無象の他人の思考回路が、島田が来るとやわらぐのだ。
何か波長とかなんだろうか。それとも俺がリラックス出来る相手なのか。……こんな相手なら傍にいて欲しい、なんてふと思う。
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