3話 意図的な出会い

1/2

32人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ

3話 意図的な出会い

 次に島田に会えたのはちょうど一週間後の昼休みだった。  俺も外に出たりで毎回来ているわけではないが、どうも昼のタイミングが合わないようだ。俺は社員食堂に行くたび、なんとなく彼の姿を探していた。もしや避けられている? と思い始めた今日、島田は何事もなく俺の隣にやってきた。 「結城さんこんにちは。お隣失礼します」 「……おう。久しぶり?」 「研修に行ったり開発のかたと外で食べたりして、なかなか来られませんでした。これ研修のお土産です。部署内で余ったので、もし良かったら」  ぽつんと差し出されたのは、包装にどこかのゆるキャラが描いてあるまんじゅうだった。 「ありがとう、俺甘いの好き。――研修ってわりとある感じ?」 「今回はあるサンプルの回収と修復について、急遽研修が入りました。機密事項なのでこれ以上は言えないんですが」  サンプルってなんだろう。うちは自動車会社だから新しいパーツとかシステムかな? 機密と言っているのを聞き出すほど俺もしつこくはないので、世間話として流すことにした。 「――ところで結城さんてお酒飲むとしたらどれくらいですか」 「ん? まあ人並みに」 「具体的に酒量どれくらいですか」 「グラスに二、三杯くらいかな? 種類にもよるけど、あんま飲むと頭痛がひどくなるんでほどほど。なに、飲みに行くの」  もしかして飲みに誘われているのか? と思ったが、島田は少しの間何か考えるような表情をして、すぐに「今日はキーマカレーにしてみました」と謎の返しをした。会話がところどころ行き止まりな感じがする。もしや会話下手かな。  キーマカレーは先日俺が頼んだメニューだ。やはり気になっていたのだろうか。もっちりしたナンを千切り、島田はそれを食べ始めた。 「旨いだろ?」  口に頬張りながら、島田が頷く。 「この前勧めていただいたのに、素直に食べれば良かったなって。……結城さんは、今日は焼肉定食ですか。それもいいな」 「味見するか? いいぞ別に」 「……じゃあ、一口」  なんだか反省してるけど、そんなこと気にしなくていい。そしてやっぱり食いしん坊だ。なんか可愛いな。  ……あ。まただ。  ふと気づく。俺の周りに存在する有象無象の他人の思考回路が、島田が来るとやわらぐのだ。  何か波長とかなんだろうか。それとも俺がリラックス出来る相手なのか。……こんな相手なら傍にいて欲しい、なんてふと思う。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加