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4話 深層心理の漏洩
実際に呼ばれたわけでもないのに島田に名前を呼ばれた気になって、急に落ち着かなくなった。
(紡久さん)
これ以上いけない。想像するな。
けれど島田の悪魔が俺を下の名前で呼ぶということはつまり、島田が心の中でそう呼んでいる可能性があるのでは? 先日だって俺のフルネームがさらっと出てきたのは、そういうことなのではないか。なんて自意識過剰だったら恥ずかしいけど。いや実際グレネリなんか勝手に大和呼び始めたし、勿論違う可能性もあるのだが。
「うわあ悪魔ってほんと即物的」
俺も即物的だ……島田に何を求めるのか。
「いいだろ別に好きなんだし。あの細マッチョ、えちえちな体のライン……脱がせてじっくり視姦したいなあ」
……今なんて?
聞き間違いかな? それとも単なる好奇心? 情報が大渋滞していてどこから交通整理したものかわからない。島田の悪魔、ツッコミどころが多すぎる。
「ウリくん、同じ職場の人なんてやめとこ? 駄目だった時つらすぎるよ」
「そんなだからいつまで経っても童貞なんだよ。己の壁を打ち破れ! 紡久さんの穴をぶち抜かせてもらえ!」
――待って?
え、待って?
「やだやだ欲望に忠実な悪魔って。幸せの形は他にもいろいろあるんだよ。そういうのはウリくんのタイミングで、いつか。焦る必要全然ないからね」
「黙れガキンチョ! いつか? 今だろ! 人の時間は限られてんだよ」
「紡久さんの都合だってあるじゃないか」
「大丈夫、俺の分析では紡久さんは紛うことなき受けちゃんだ」
いや何を決めつけてんだ?! どいつもこいつもなんで俺を……。
相手の深層心理ダダ漏れ状態が可視化出来ているなんて知られたら、人間関係にひびが入る。故に言えない。
言えないが……俺はどうしたらいいんだこれ。困ったな。
島田が俺を、性的な目で見てる? 俺って対外的にそう見えるのか? こんなに鍛えているのに。そう……なのか……?
「紡久さん、他人が秘密にしている迷いをこんなふうに知るなんて、いけない男ですね。ここまで知っちゃったらあとは行動あるのみでは?」
アマネルがわざと俺の下の名前を呼んで、楽しそうに囁いた。
グレネリはにやにやとこちらを眺めていたが、やがて天使の翼をいやらしい手つきで撫で始めた。アマネルも気づいているだろうに、特に指摘せず撫でさせている。時折甘えるような吐息混じりの笑みが漏れるのも気まずい。真っ昼間の社員食堂でいちゃつきやがって。くっそ。
「結城、童貞くんにぶち抜かれんの? 滾るなぁおい」
勝手に滾ってろよ。
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